懲罰的損害賠償についての最高裁判例
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◆懲罰的損害賠償を認めた外国判決は日本では効力が認められない
◆懲罰的損害賠償の弁済も日本では効力が認められない

英米法では、主として不法行為訴訟において、加害行為の悪性が高い場合に、加害者に対する懲罰及び一般的抑止効果を目的として、懲罰的な損害賠償を命ずることがあります。
外国判決を日本において執行しようとする場合、執行判決(拙稿「外国判決が日本で有効になる場合とは」参照)を得なければなりませんが、懲罰的損害賠償を命じた外国判決については執行判決を得ることはできないとされていました。外国判決が日本において効力を有するための要件の一つである判決の内容等が日本における公の秩序等に反しているためです(民事訴訟法118条3号)。
懲罰的損害賠償請求についての最高裁判例(令和3年5月25日)が、当事務所で行っている大阪企業法務研究会において報告されましたが、興味深い判例なので紹介することにします。

この判例の事案は以下のとおりです。
申立人(執行判決を求める者)がアメリカ法人でその相手方が日本法人で、カリフォルニア州の裁判所において、日本法人はアメリカ法人に対して、填補的損害賠償(不法行為前の状態に回復させるための損害賠償で日本法においても認められるもの)として18万5000ドル、懲罰的損害賠償として9万ドルを支払うよう判決がされて確定しました。
申立人はアメリカにおける強制執行として、アメリカにおいて相手方がその関連会社(アメリカ法人)に対して有する債権の転付命令(強制的に債権譲渡させる命令)を得て約13万5000ドルの弁済を受けました。
申立人は日本において、残りの約14万ドルについて執行判決の申立てをしました。

最高裁は、約5万ドルについてのみ執行判決を認めました。
その理由として、懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分(「懲罰的損害賠償部分」)が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について弁済がされた場合、その弁済が外国裁判所の強制執行手続においてされたものであっても、これが懲罰的損害賠償部分に係る債権に充当されたものとして外国判決についての執行判決をすることはできない、と述べています。
つまり、日本において、懲罰的損害賠償請求は公の秩序に違反するので外国の裁判所による命令が効力を有さず、それについての債権は存在していないと考えるべきであり、外国における弁済についても懲罰的損害賠償の弁済とは認めないということ思われます。
これまでの最高裁判決(平成9年7月11日)でも懲罰的損害賠償については執行判決を得ることはできないとされていましたが、懲罰的損害賠償請求が日本において効力を有しないということを徹底したものといえると思います。
なお、本件は、アメリカにおいて強制執行により弁済がされた事例であり、もし、懲罰的損害賠償として支払いがなされた場合には結論は異なる可能性が高いのではないかと思われます(私見)。

本件は、判決の送達がされていない場合に執行判決を得ることができるのかという論点もありました。上記民事訴訟法118条には訴訟の開始に必要な呼出等があったこと(いわゆる外国への訴状の送達の問題で拙稿「国際訴訟への対処法-外国からの訴状を受け取ったら」  参照)は要件となっていますが、判決については規定されていないためです。
本件についての大阪高裁判決(平成29年9月1日)は、判決についても送達が必要であるとして申立人の執行判決の申立てを認めませんでした。
しかし、平成31年1月18日の最高裁判決は、外国判決の内容を知らしめることが可能であったにもかかわらず、敗訴当事者が知る機会を実質的に与えられなかったことにより、不服申立ての機会が与えられないまま外国判決が確定した場合は公の秩序に反するとし、知る機会が実質的に与えられたかどうかを審理させるため、上記大阪高裁判決を破棄差し戻しました(令和3年5月25日判決はそれが再度上告されたものです)。
その結果、差戻審の大阪高裁では、相手方(日本法人)は申立人(アメリカ法人)側からのアメリカにおける強制執行に関する電子メールにより敗訴判決を知ることができたとして、判決が送達されていないことは公序に反するものではないとしました。