台湾企業との国際紛争について
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<ポイント>
◆台湾企業を相手に日本で訴えを提起することは困難
◆日本における仲裁判断を、台湾で承認した事例あり

昨今は台湾(中華民国)をめぐる米中の摩擦についてのニュースが取り上げられることが多くなりました。米中間の台湾をめぐる国際情勢は日本にとっても重大ですが、国際民事訴訟においても台湾の地位には特殊なものがあります。
現在、日本と台湾との国交は断絶されていますが、経済交流は非常に盛んであることは台湾新幹線の例を挙げるまでもないと思います。
ただ、国交が断絶された国の企業との契約は紛争になったときに厄介な問題が生じます。
まず、日本企業が台湾企業に対して訴えを提起する場合を考えます。両者間の契約には裁判管轄の定めがないことを前提とします。
日本で訴えを提起することを考えると、裁判開始の前提となる訴状の送達が問題となります。他国の被告に訴状を届ける方法としては「民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約」(いわゆるハーグ条約)による方法や日米・日英領事送達という方法があります。
しかし、台湾との関係ではいずれの方法でも送達をすることはできません。もちろん、被告の台湾企業がすすんで日本で訴状を受け取ったり、あえて日本の法廷に出頭したような場合は別です。
公示送達による判決を取得できる場合がありますが、台湾の民事訴訟法では外国判決を承認執行する要件として公示送達でないこととしており(日本の民事訴訟法第101条と同じ)、有効なものとして執行できません。
そうすると、日本企業としては台湾において訴えを提起するしかないことになります。さきほど契約による裁判管轄の定めがないことを前提としましたが、日本の地裁を専属的な管轄裁判所としていれば、台湾において訴えを提起することもできないというジレンマに陥る可能性もあります。
また、台湾で勝訴判決を取得すれば、台湾で強制執行をすることは可能ですが、日本にある台湾企業の資産に強制執行をすることは、日本と台湾の間には司法共助の関係がないことから難しいと思われます。

次に日本企業が台湾企業に対して仲裁の申立てをすることを考えます。両者間の契約には日本における仲裁合意があることを前提とします。
台湾は「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(ニューヨーク条約)の締約国ではありません。しかし、中華民国仲裁法では外国仲裁判断の承認及び執行についての規定があります。仲裁判断は確定判決と同一の効力がありますが、外国仲裁判断の承認については、中華民国の公序良俗に反する場合や中華民国法上仲裁で解決しえない紛争の場合には裁判所は承認することができず、当該仲裁判断をした外国が台湾における仲裁を承認しない場合には裁判所は承認しないことができる(相互保証)とされています。また、承認の申立てに対して、相手方の申立てにより裁判所が却下しうる6つの承認拒否事由を規定していますが、これらは、ニューヨーク条約におけるものとほぼ同じですので、実質的にはニューヨーク条約の締約国と同様に手続きをすることが可能となります。
実際に売買契約における商品の不具合を理由とする約400万円の損害賠償を求めて日本企業が台湾企業を相手に日本商事仲裁協会(仲裁地は東京)に仲裁の申立てをしたところ、台湾企業は仲裁審問に出席せず、上記約400万円の支払いを台湾企業に命ずる仲裁判断がなされ、この仲裁判断が台湾において承認された事案があります。
この事案では、上記のとおり相互保証の規定があるため、日本における台湾の仲裁判断の承認が争点となりましたが、判決では台湾の仲裁判断を承認することは必ずしも必要な条件ではなく、その承認を期待できれば相互の承認があると解せられるとされました。
さらに、仲裁判断を執行するには裁判所の執行決定が必要ですが(日本においても同様)、台湾においては、特定額の金銭の支払い、一定量の代替可能物、有価証券の引渡しまたは特定の動産の引渡しに関する仲裁判断については、当事者双方が裁判所の執行決定がなくても強制執行できる旨を書面で合意していれば、執行決定なしに強制執行をすることができます。