2023年08月01日

AIがアメリカの司法試験に合格したというニュースを耳にした。現時点で日本の司法試験にも合格できるかどうかは知らないが、いずれは合格するだろう。試験結果だけを見れば、AIは弁護士になりうるということだ。それでは、AIが弁護士の仕事を奪う日は来るのだろうか。

結論から言うと、AIが弁護士の仕事を奪う日は来ないと思っている。

AIが弁護士に成り代わる場合、現在の弁護士がそうしているように、依頼者から事件の情報収集を行う必要がある。この情報収集が曲者で、依頼者が自発的に過不足なく必要十分な情報を提供してくれることなど、基本的にはない。依頼者が重要と考えている情報と裁判上重要な情報は往々にして異なっており、上手にヒアリングをしなければ、後者の情報を取り零してしまう。また、依頼者から誤った情報を提供されることもよくある。その原因は様々で、単に時間の経過で記憶が曖昧になっているケースもあれば、感情的になって記憶がすりかわってしまっているようなケースもある。そのため、私は、依頼者から聞いた情報をそのまま鵜呑みにせず、証拠や他の明らかな事実と照らし合わせて、情報の正誤を判断することにしている。情報が誤っている可能性があれば、依頼者にそのことを説明し、記憶喚起を行うなどする。その結果、正しい情報が明らかになることもある。
既存のAIを見る限り、利用者がインプットした情報を前提にアウトプットをするのは得意なようだが、利用者に必要な情報をインプットさせる、あるいは、インプットされた情報の正誤を判断して正しい情報をインプットさせなおすといった作業はできないように思う。

このように書くと、AIにこれらの作業を学習させれば、いずれはできるようになるのでは、と思う方もいるかもしれない。しかし、これらの作業はおそらく学習のしようがない。民事裁判を念頭に弁護士の仕事をAIに学習させようと思った場合、一番アクセスしやすい教材は判決だろう。判決は裁判所のHPでも公表されている。また、判決よりは相当アクセスしづらいが、判決以外の訴訟記録(弁護士が作成した裁判書面を含む)も裁判所において閲覧することができる。しかし、これらの教材から、上記の情報収集に関する作業を学習することはできないだろう。上記の裁判書面にしても、弁護士が情報収集を終え、その情報を取捨選択した後に作成された書面でしかない。弁護士による情報収集の過程は秘匿され、依頼者以外に開示されることはないのである。