M&Aにおける退職慰労金の打ち切り支給
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<ポイント>
◆退職慰労金の打ち切り支給はM&Aでもつかわれる
◆株式譲渡などのM&A成立時に株主総会決議と合意書面の作成を

株式会社の取締役に対する退職慰労金については、各種のアンケートから上場会社の7割以上がその制度を廃止していると言われており、今年(2019年)に入っても廃止の公表を行う会社が散見されます。
たとえば資料版商事法務によれば平成30年6月総会の1899社のうち40社が新たに退職慰労金制度を廃止しました。
株主総会による決議がないと退職慰労金支払請求権は発生しません(定款の定めのある会社を除きます)。株式会社の内規(役員退職慰労金規程等)がある場合やこれまで退任取締役に一定の退職慰労金が支払われてきた歴史があり慣例化している場合でも同様です。
上場会社の株主総会決議のやり方について、個別の退職慰労金の額を明示して決議をする会社(たとえばカルビー株式会社)もありますが、一般的には一定の基準に基づき退職慰労金を支給することを取締役会に一任する旨の株主総会決議をします。その上で、取締役会が具体的支給金額を内規等に従って決定することになります。

退職慰労金制度の廃止は、たとえば役員退職慰労金規程の廃止であり取締役会決議で足ります。しかし、廃止時点での内規に従って在任期間に応じた打ち切り支給をするときは株主総会決議が必要となります。
この場合、株主総会決議で退職慰労金の支給時は役員退職時とするのが通常です。

上場会社が退職慰労金制度の廃止に伴い打ち切り支給する場合だけではなく、上場していない中小企業もM&Aの際に退職慰労金の打ち切り支給決議をすることがあります。
M&Aにおいては対象会社の株式譲渡が行われて支配権が買収者に移るのが一般的な手法です。
このようなM&A成立の条件として、退職する役員(特に社長)に多額の功労加算がされた退職慰労金が支払われることがあり、いわば節税目的等のために、M&A対象会社の株式の譲渡対価の一部が退職慰労金として支払われるといえるでしょう。
しかし、M&Aの対象会社の社長がM&A後も引き続き社長を続ける場合や社長は退任するものの取締役として会社運営に協力する場合には、退職慰労金の支払いが将来の役員退任時に繰延べになります。
その場合、将来の役員退任時に株主総会決議をすることにしていても、実際に退職慰労金支給の株主総会決議がされることの確実な保証はありません。
もし、退職時にM&Aの買収者が約束した退職慰労金支給の株主総会決議がされない場合、冒頭に述べたように退任取締役に退職慰労金請求権が当然に発生するわけではなく、約束に従った決議をするよう買収者に請求するしかなくなり、余計な紛争やリスクを伴うことになります。
したがって、M&A対象会社の株式譲渡などのM&A成立時には退職慰労金の打ち切り支給の株主総会決議をしておく必要があります。その株主総会決議では退職慰労金の額を明示しておくか、取締役会決議に一任する場合には同様に額を明示した取締役会決議をしておくべきです。それとともに会社との間で退職慰労金の支払いの時期等についての合意書面を作成しておけばなおいいということになります。