大量保有報告制度の課題について

<ポイント>
◆大量保有報告制度について金融審議会のワーキング・グループでの検討が開始
◆検討課題の一つは共同保有者の範囲について

 

金融商品取引法では、株券等の大量保有者(株券等保有割合5%超)となった場合には、大量保有者となった日から5営業日以内に「大量保有報告書」を提出しなければならないという、いわゆる5%ルールがあります。
少し古い事案ですがこのルールに違反して刑事罰を課せられた「東天紅事件」についての記事を掲載したことがありますが、2023年6月5日に金融審議会の公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループの第1回会合があり、それについての論稿が商事法務に載るようになったので、今回は大量保有報告制度をテーマとします。

大量保有者は、大量保有報告書を提出する義務があり、提出後も株券等保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合は、その変更があった日から5営業日以内に「変更報告書」を提出しなければなりません。
また、株券等の保有者は、その株券等保有割合の算出において、(1)保有者との間で、共同して株券等を取得し、又は譲渡することを合意している者、(2)保有者との間で、共同して株主としての議決権そのほかの権利を行使することを合意している者、(3)保有者との間で、一定の資本関係、親族関係その他特別の関係がある者、のいずれかに該当する者(共同保有者)がいる場合、当該「共同保有者」の株券等保有割合も合算しなければなりません。
上記ワーキング・グループの検討課題の一つとして、共同保有者の範囲が不明確であることが挙げられています。
たとえば、上記(2)の共同して議決権行使を合意しているとはどういう場合かです。
2014年の「日本版スチュワードシップコードの策定を踏まえた法的論点に係る考え方の整理」において、法令上の権利行使(議決権の他、株主提案権、議事録・帳簿閲覧権、役員等に対する責任追求訴訟の提訴請求権などの行使)以外の株主としての一般的な行動についての合意にすぎない場合には、原則として該当しないとしています。
また、「合意」とは、単なる意見交換とは異なり、相互又は一方の行動を約する(文書によるか口頭によるかを問わず、明示的か黙示的かを問わない)性質のものを指し、各々の議決権行使の予定を伝え合い、それがたまたま一致したに過ぎないような状態では該当しないとしています。
これらを前提としても、複数の機関投資家が連携して、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を行う場合(協働エンゲージメント)を行う際に「共同保有者」の解釈の不明確さが支障となっているとの指摘がされています。
すなわち、協働エンゲージメントに参加した他の投資家が株主提案を行った場合に、当該株主提案に参加する場合には共同保有者に該当する可能性があるとされています。
また、共同して議決権行使を合意しているというのは、経営支配を目的とするといった限定がなく、極めて包括的に規制しているように読めることも問題だと指摘されています。

一方で、共同保有者として大量保有報告書を提出せず、また、大量保有報告書の共同保有者について虚偽等を記載しているのではないかとの疑義が生じる事案もみられるとの指摘もされています。
そのような状況において、臨時株主総会招集請求や定時株主総会における株主提案を通じて、対象会社の経営陣の総入れ替えを図ったりする事例が散見されるということです。
このような事態が生じる理由として、大量保有報告規制違反に対して、厳しく対応されていないことが指摘されています。
1990年に大量保有報告制度が導入されて以来、違反者に対して刑罰が課せられたのは前記東天紅事件をはじめ2件のみ、課徴金が課せられた例は8件のみということであり、大量保有報告書の提出が1週間以上遅れることは稀ではないこと、保有目的を当初は純投資としながら、相当な買い集めをした後に支配権の取得に変更するような例が散見されることからすれば、到底厳しく執行されているとはいえないことが指摘されています。
また、大量保有報告規制違反があっても議決権行使を停止する制度がない(欧米などでは制度化されている)ということも指摘されています。
さらに、共同保有者の要件を欧米並みに緩和するべきではないかという意見もあります。

大量保有報告規制については、約10年ぶりに改正をしようということですが、議論は緒についたばかりのようであり、今後の状況をフォローしていきたいと思います。