取締役の不当解任を理由とする損害賠償請求について
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<ポイント>
◆会社法339条2項
◆「正当な理由」の主張立証の対象
◆「正当な理由」とは?

 

1 会社法339条
中小企業において経営方針の違いなどから、取締役としていた者を解任したいと考えるに至ることがあります。
会社法339条ではその第1項で、「役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。」と規定されています。ここで「役員」は取締役、会計参与及び監査役を言います(会社法329条1項)。
しかし、解任そのものはいつでもできるとしても注意が必要です。第2項では、「前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。」としています。

2 主張立証の対象について
解任についての「正当な理由」については、会社側の方で、その成立を根拠づける具体的事実を主張立証することになります。これに対して解任された役員は、その成立を妨げる具体的事実を主張立証していくことになります。
どちらの立場でも、解任に至った経緯の中でのやりとり、例えば電子メールやラインでのやり取りの履歴などを確保することが必要になってきます。

3 「正当な理由」とは?
では、解任についての「正当な理由」とは、どのような事由があるでしょうか。
抽象的には「会社において取締役として職務の執行をゆだねることができないと判断することもやむを得ない、客観的、合理的な事情が存在する場合」「株式会社が役員等に対し取締役としての責務の遂行を期待することが客観的に難しい状況がある場合」等をいうとする裁判例もあります。
より具体的には、(1)法令・定款違反行為、(2)心身の故障、(3)職務への著しい不適任(経営能力の著しい欠如)がこれに該当することにほぼ争いはありません。
(4)経営上の判断の失敗は、これに該当するかは考えが分かれていますが、(5)単に株主の好みであったり、より適任な者がいるという主観的な信頼関係の喪失は、これに該当しないとされています。

4 稀に見ることですが、こうした会社法の規定を知らなかったために、正当な理由を考慮することなく、取締役を解任してしまう経営者の方がいます。しかし、会社法上は、損害賠償責任を負う問題となるため、解任に正当理由がなければ役員報酬・賞与の他、場合によっては退職慰労金についても賠償責任の範囲に含まれることもあるので注意が必要です。