副業・兼業の促進に関するガイドラインについて
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<ポイント>
◆副業・兼業は増加傾向にあり政府も促進を推奨
◆労働時間の管理が最も重要
◆現段階では運用には難しい点があることに留意が必要

副業・兼業を希望する人が年々増加傾向にあるなか、安心して副業・兼業に取り組むことができるよう、労働時間管理や健康管理等について示すガイドラインが厚生労働省から公表されています(2018年1月策定、2020年9月改定)。
今回はそのガイドラインの内容を解説します。

副業・兼業を希望する理由は様々ですが、収入を増やしたい、コロナ禍において本業の収入が減少しているのを補いたいなどの理由が考えられます。また、キャリアアップのために自分の能力を向上させたいという人もいます。
人生100年時代を迎え自らの希望する働き方を選べる環境を作ることが必要であるとされており、そのために副業・兼業についても積極的に進めていこうというのが厚生労働省の考え方のようです。

なお、副業・兼業に関する裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許されるのは、例えば、(1)労務提供上の支障がある場合、(2)業務上の秘密が漏洩する場合、(3)競業により自社の利益が害される場合、(4)自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合などが挙げられます。
実際に、そのようなデメリットがないのに、就業規則等で禁止しているだけで懲戒処分はできないというのが判例の考え方です。

副業・兼業は労働者にとって所得の増加のほかに、主体的なキャリアの形成やリスクの少ない形で将来の企業・転職を準備することができるなどのメリットがありますが、長時間労働による健康管理上の問題が生じる可能性があります。そして企業にとっては、秘密保持や競業避止の問題のほか、労働時間管理や健康管理の対応が重要な問題となります。

企業の責任として、副業・兼業を行う労働者のすべての使用者が安全配慮義務を負います。
そして、労働者の秘密保持義務を履行させるために、就業規則等でそのための手当てをする定めを置くことも必要です。
また、労働者が一般的に負っているとされる競業避止義務(在職中使用者と競合する業務を行わない義務)に違反が生じないよう一定の場合に副業・兼業を禁止したり制限したりすることができるようにしておくことも必要です。
また、労働者には、使用者の名誉・信用を毀損しないよう誠実に行動することが要請され、そのための副業・兼業の制限やチェックも必要です。

副業・兼業を許す場合、実務的には、労働時間の管理が最も重要な問題になります。
事業場を異にする場合でも労働時間に関する規定の適用については労働時間が通算されるとされており、それは雇用主が異なる場合も当てはまります。
つまり、労働者の副業・兼業が雇用契約で行われる以上は、原則として労働時間が通算され、それに基づき時間外労働についての制限や時間外手当の支払い義務が発生することになります。
ただし、36協定や休憩、休日、有給休暇については、その適用において、労働時間は通算されないと定められています。
そのため、ガイドラインにおいて、使用者は労働者からの申告等により副業・兼業の有無・内容を確認する必要があるとされており、その方法についても記述があります。
そして、法定時間外労働等の有無を確認する必要もあるとされています。
また、各々の使用者は、通算して時間外労働となる時間によって、時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内の要件を遵守するよう、1か月単位で労働時間を通算管理する必要があるとされています。

また、割増賃金については、労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し、次に所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算して労働時間を把握し、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分のうち、自ら労働させた時間について時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。そして、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が1か月について60時間を超えた場合には、その超えた時間の労働のうち自ら労働させた時間については5割以上の率を支払う義務があります。
その考え方を前提として、ガイドラインではそれぞれの事業所における労働時間の上限を設定するなどの方法によるそのための簡便な労働時間管理の方法を提言しています。

また、健康管理において、(労働時間を基準として行われる)健康確保措置の実施対象者の選定に当たっては、副業・兼業先における労働時間の通算をすることまでは求められていません。
ただ、労使の話合い等を通じ、副業・兼業を行う者の健康確保に資する措置を実施することなどが適当であるとされています。

副業・兼業については、現状にかんがみ積極的に推奨される流れになっているものの、法規制としては特別な手当や定めはなされておらず、現段階では各企業の総務・人事の負担が多いと言わざるを得ません。
管理方法が確立するまではなるべくフリーランスでの副業・兼業を推奨する専門家もいるのが現状です。
より利用しやすい制度の創設が待たれます。