無関心ではいられない内部通報制度(第2回)~公益通報者保護法改正その他の動向と実務上の影響

 池田 佳史

2021年03月15日

<ポイント>
◆公益通報者の範囲が1年以内の退職者と役員に拡大
◆公益通報対象事実として行政罰が課せられる場合に拡大
◆内部通報規程の通報者に役員と1年以内の退職者の追加を

公益通報者保護法は2006年4月1日に施行されましたが、その後も国民の生命、身体、財産に被害を及ぼすような企業不祥事は後を絶たず、法が有効に機能しているとは言い難い状況でした。
そこで、公益通報者保護をより強化して実効性を上げるために改正が検討されるようになり、2020年6月12日に改正公益通報者保護法が公布されました。施行は公布日から2年を超えない範囲内において政令で定める日です。
今回は、公益通報者の範囲及び通報対象事実の拡大について取り上げます。

公益通報者の範囲について、改正前は従業員に限定していましたが、1年以内の退職者及び役員に拡大しました。ここでいう役員には、取締役や監査役などのいわゆる会社役員以外に一般社団法人などの理事、幹事なども含みます。
退職者については、消費者庁の行った実態調査では労働者についで通報が多いこと、公益通報を理由として退職金の不支給等の不利益取扱事例があるためです。1年以内の退職者に限った理由としては、退職後の公益通報を理由に不利益を受けた事例は退職後1年以内のことが多いことがあります。
退職者について、保護の要件や内容は労働者と同じです。
役員については、その通報により不正が是正された事例があり、また、公益通報を理由として解任等の不利益な取扱いを受けている事例があるためです。
役員が解任された場合には損害賠償請求ができるだけとされており、また、外部への通報の場合には、原則として調査是正措置(善管注意義務をもって行う調査及び是正措置)をとることに努めたことが必要です。役員は、事業者に対して善管注意義務、忠実義務を負っており、事業者内部で不正等を発見した場合、与えられた権限等を行使して自らその是正に努めるべきだからです。
保護の内容として損害賠償請求に限定されたのは、法人と役員は信頼関係を基礎としており、たとえば会社のように、理由がなくともいつでも解任できるためです。なお、退職した役員は対象となっていません。

通報対象事実についてですが、改正前は公益通報者保護法の別表に規定された、刑法、食品衛生法、金融商品取引法、日本農林規格等に関する法律、大気汚染防止法、廃棄物処理法、個人情報保護法及び政令で定める法律の合計474本の法律(令和3年2月1日現在)における、法律違反行為に刑事罰が課せられる事実に適用が限定されていました。
しかし、たとえば、無資格者による自動車完成検査により過料が科せられた事例(上記の政令で定める法律である道路運送車両法違反)、大手コンビニエンスストアが委託業者に支払う代金を不当に減額したことにより過料が科せられた事例(同独禁法違反)等の刑罰が課せられるものでなくとも、該当事実の通報が公益通報として保護が必要な場合はありえます。
そこで、改正法では、行政罰としての過料が課せられる行為に該当する事実に保護の範囲を拡大しました。公益通報者保護法も改正により罰則規定が設けられることから、その違反行為に該当する事実は通報対象事実に該当することになりましたが、これ以外に対象となる法律が増加するかどうかは未定です。

上記改正点が内部通報制度に与える影響としては、内部通報をする資格のある者として、消費者庁の民間事業者向けガイドラインでは役員、退職者を含めるよう述べているものの、従業員に限っている事業者も少なからずあるものと思います。その場合、少なくとも公益通報者保護法の対象事実の通報に関しては、役員と退職後1年以内の元従業員を含める必要があります。また、新たに規定された内部公益通報制度整備義務の一環として、退職前に退職後も公益通報ができることを教育、周知するべきです。通報対象事実については、通報内容に制限を加えている事業者はほとんどないと思われますので特に変更の必要はないと考えられます。