無関心ではいられない内部通報制度(第1回)~公益通報者保護法改正その他の動向と実務上の影響
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<ポイント>
◆公益通報者保護法は公益通報した労働者を不利益取扱から保護する法律
◆内部通報制度と公益通報者保護法はお互いに強く影響しあう関係

「無関心ではいられない内部通報制度」連載にあたって
当事務所が2015年8月10日に「実効性のある内部通報制度のしくみと運用」を日本実業出版社から出版して5年以上が経過しました。
その間、令和2年の公益通報者保護法の改正、認証制度の開始、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の改定等、内部通報制度をめぐる大きな動きがあり、企業経営等にとって内部通報制度の整備及び適切な運営がより重要なものとして意識されるようになってきました。
そこで、当事務所発行の「実効性のある内部通報制度のしくみと運用」の補講の意味を兼ねて、連載で公益通報者保護法の改正点等などについて実務上の影響を報告することにします。

公益通報者保護法と内部通報制度の関係について
公益通報者保護法の改正点の解説に入る前に同法と内部通報制度の関係を明らかにしておきたいと思います。
公益通報者保護法は、同法に規定する一定の通報(公益通報)を行った労働者を事業者からの解雇を含む不利益な取扱いから保護するために制定されています。
そのため、同法には、保護される公益通報・通報者の範囲やどういう条件での通報に対して不利益取扱いから保護するか、という規定はありますが、内部通報制度の整備義務について直接の規定はありませんでした(この点が後の回で述べる改正点の一つです)。
ただ、同法には、外部機関(監督行政機関以外の外部)への公益通報の保護要件として、書面等により労務提供先に通報後20日を経過しても調査を行う旨の通知がない場合または正当な理由なくて調査を行わない場合が規定されています。
つまり、労務提供先への通報、すなわち内部公益通報を受けた事業者が通報を放置していた場合、それが故意に隠蔽する意図ではなく過失等の不手際による場合であっても、マスコミなどへの内部告発が正当化されてしまうということになります。
このような事態を避けるためには、事業者内部において通報があった場合に迅速な対応ができる仕組み、すなわち内部通報制度の整備が重要になります。
一方、たとえば会社法上、取締役等の経営陣の責務として内部統制システムの整備があります。会社内部における不祥事を素早く見つけ出して会社内部で是正するためのルールとして内部通報制度を設ける必要性は高く、これを怠った場合には内部統制整備義務に反するものとして取締役等の善管注意義務違反の問題ともなりえます。
また、法令ではありませんが、2016年12月9日に消費者庁から「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」が公表されました。
そこには、事業者が実効性のある内部通報制度を整備・運用することは、組織の自浄作用の向上やコンプライアンス経営の推進に寄与するとされ、また、経営トップ自らが、経営幹部及び全ての従業員に向け、コンプライアンス経営推進における内部通報制度の意義・重要性などについて、明確なメッセージを継続的に発信することが必要であるとされています。
このガイドラインでは、公益通報者保護法による公益通報は当然のこととして、それにとどまらずそれ以外の様々な経営上のリスク(不祥事)を、外部へ通報が行われる前に事業者内部で自浄作用を発揮して是正等するために内部通報制度は重要な意義を有するものとされ、事業者がこれに応えることが期待されています。
このように、公益通報者保護法と内部通報制度はそれぞれに根拠、目的を持ちながら、互いに強く影響しあう関係にあるといえ、内部通報制度の運営を適切に行い、また充実させるため、公益通報者保護法の改正内容を知っておくことが必要となります。