無関心ではいられない内部通報制度(第3回)~公益通報者保護法改正その他の動向と実務上の影響
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<ポイント>
◆2号通報において一定の場合には真実相当性の要件が不要に
◆3号通報における特定事由の要件が緩和
◆外部通報を避けるため内部通報体制の強化を

公益通報は、その通報先に応じて、次のように通称されています。
1号通報 役務提供先、役務提供先が指定した者への通報
2号通報 監督行政機関への通報
3号通報 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する通報(マスコミなど)
1号通報は内部での通報であるのに対して、2号通報及び3号通報は外部への通報といえます。

このような通報先に応じて、通報者が公益通報者保護法上の保護を受けるための要件が異なります。改正前の要件は次のとおりです。
1号通報 通報対象事実が生じ、または、まさに生じようとしていると思料する場合
2号通報 通報対象事実が生じ、または、まさに生じようとしていると信じるに足りる相当の理由がある(真実相当性の要件)場合
3号通報 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり(真実相当性の要件)、かつ、法の定める特定の事由がある(特定事由)場合
改正法では2号通報と3号通報の要件が緩和されました。今回は、これらの要件緩和について解説します。

改正前の1号通報と2号通報の要件を比べると、2号通報の要件は相当厳しくなっています。
このような差が設けられた理由の一つは、行政機関への外部通報よりも内部通報の要件を緩和することで、内部通報を行うインセンティブを高め、事業者内部での自浄作用を高めることにあります。
この理由自体は合理的ですが、他方で、行政機関への外部通報の要件を緩和する必要性が指摘されてきました。内部通報には、通報者が判明して不利益取扱いをされることを危惧して従業員が消極的になるなどの限界があるからです。また、中小規模の事業者では内部通報の体制整備が難しいので、行政機関が通報の主たる受け皿となる必要があります。
このような考えのもと、改正後の2号通報においては、真実相当性の要件を維持しつつも、一定の事由を記載した書面等を行政機関に提出した場合には真実相当性の要件が不要になることとなりました。この一定の事由とは、氏名・名称、住所・居所、当該通報対象事実の内容、通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると思料する理由、当該通報対象事実について法令に基づく措置その他適当な措置がとられるべきと思料する理由です。

他方、3号通報については、通報先に秘密保持義務が課せられていないこと、そのために情報が漏洩した場合に現代では情報が瞬時に拡散してしまうおそれがあることから、真実相当性の要件は緩和されませんでした。
しかし、新たに2つの事由を特定事由に追加するという形で要件が緩和されました。
1つは、役務提供先等へ公益通報をすれば、役務提供先が当該公益通報者について知りえた事項を、当該公益通報者を特定させるものであることを知りながら、正当な理由なくて漏らすと信じるに足りる相当な理由がある場合です。
もう1つは、個人の財産に対する損害(回復できない損害等に限ります)が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合です。

事業主にとっては、外部通報よりも、不祥事の予防や不祥事による被害拡大防止の可能性がある内部通報を利用してもらいたいものです。しかし、上記のとおり外部通報の要件が緩和されたことで、少なくとも公益通報に関しては、通報者が内部通報ではなく外部通報を選択するケースが増えるでしょう。しかも、本改正により、一定規模以上の事業主は外部通報の存在や内容を、役員、従業員及び退職者に周知教育しなければならなくなりました(別の回で解説予定)。
そのため、事業主としては、内部通報制度を充実させて信頼を得ることで、従業員等に外部通報ではなく内部通報を選択してもらうという意識を持つことが重要です。その方法の一環としては、弁護士を内部通報窓口にすることをご検討下さい。弁護士を窓口にすることで、通報者に「秘密が守られる」、「弁護士が調査をしてくれる」という安心感を与えることができ、内部通報の促進につながります。