2021年07月01日

最近の新聞記事を賑わしているニュースとして、今年2021年6月の東芝の株主総会がある。会社提案の役員選任議案が一部否決されたものであり、その契機は2021年3月の臨時株主総会で選任された第三者委員会の報告書が、それ以前に監査委員会が外部の法律事務所を補助者として調査をした結論と異なり、東芝が経産省と共同して投資家に圧力をかけたと結論づけたことである。

上場会社及び一定の公的性質を有する団体内部で不祥事が発覚した場合、委員会を設置して調査を委託し、その調査結果を公表することは一般的になりつつある。私も、ある学校法人とある上場会社の調査委員会の委員長として報告書を提出したことがある。前者は数年前のことであり、後者はついこの間のことである。就任のきっかけは、前者は大阪弁護士会の推薦であり、後者は私が社外役員をしていたためである。前者は第三者委員会、後者は内部調査委員会であり、どういう委員会に調査を依頼するかは、事案の性質によって厳しい中立性を要求されるかどうかが重要な要素となる。
いずれにしても、就任と同時に報告書の締め切りを意識することとなる。締め切りは区切りある時期で、たとえば年末までとか、6月下旬の株主総会との関係で5月末までということになる。その締切りに合わせて色々なスケジュールを組んでいることになるが、私の経験した調査期間は大体2ヶ月である。上記の東芝の第三者委員会の報告書でも同じくらいのようである。

調査委員会の調査は、事案の調査を行う前半戦と報告書をまとめる後半戦という具合に分かれることが多いと思う。事案の調査の中心は、メールやその添付文書の検討と関係者のヒアリングである。東芝の第三者委員会の報告書でも話題になったデジタル・フォレンジックという手法で関係者のメールと添付文書を洗い出す作業を行うこともある。関係するワードを選定してそれでヒットするメール等を拾い上げるのであるが、必要なメール等を探し出すにはコンピュータ技術とノウハウが必要である。
次に関係者に対するヒアリングである。裁判だと同一人物について複数回の証人尋問をするということは通常はないが、内部の者に対するヒアリングは複数回行うことはある。というのも、事案に関するメールや添付文書といった書類の調査と並行してヒアリングをするので、どうしても1回のヒアリングでは不十分ということになるからである。裁判では、互いに主張や反論を行い、書類はほとんど提出した上で証人尋問ということになるので、1回の証人尋問で十分のことが多く、民事裁判のシステムはそれなりによくできていると感じた。

調査報告書の作成は、委員及び補助者との間で手分けして行うが、相当数の者が起案をしていくなかで文章のスタイルや用語を統一するのは相当に手間がかかる。各パートの起案者の調整をはかりつつ、統一したスタイルでの報告書を仕上げていくことになるが、最終的な修正は孤独な作業となることもある。こうして報告書を仕上げて、期限に間に合うように(今までは期限ギリギリであったが)会社等に提出する。しかし、これで終わりではなく、公表するにあたって、その後に関係者等を記号化して具体的な氏名がわからないようにしていく。私は、これに直接に携わったことはないが、本文に引用した文書のタイトルに使われた氏名等の処置等の問題は生じるものであり、それらにアドバイスや指示をしなければならない。

調査及び報告書の作成は、通常の業務も行いながらやっていくため、土日休日に業務を行わざるを得ず、体力的にはかなりキツイものである。それでも再発防止策などを盛り込んだ報告書を仕上げることで会社・団体に役に立ち、ひいては社会に貢献できるとの実感がある。弁護士人生30年を過ぎてきたが、このような仕事に巡り会えたことは幸せである。