2021年6月株主総会の留意事項(会社法改正をふまえて)
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<ポイント>
◆社外取締役を1名しか選任していない会社は補欠の社外取締役の選任議案の検討を
◆事業報告に取締役の個人別の報酬等の決定方針の決定方法の概要等の記載が必要に

令和元年改正の会社法が、一部を除いて令和3年3月1日に施行されることとなりました。上場会社は株主総会の準備にあたり改正会社法をふまえておく必要があります。本稿では、社外取締役の選任と取締役の個人別報酬等についてとりあげます。
なお、以下は3月決算の上場会社を念頭に述べます。

改正法では社外取締役の選任が必須となります。この改正により社外取締役を選任していない会社は、本年6月の定時株主総会で社外取締役の選任をしなければなりません。改正法施行後に事業年度の末日が未到来の2月決算の会社は来年の定時株主総会まではこの規定の適用はありません。
ほとんどの上場会社は社外取締役を選任していて改正法に違反していませんが、1名しか選任していない場合、欠員に備えて補欠の社外取締役の選任議案を提出する必要について検討しなければなりません。
社外取締役に関しては、会社と業務執行取締役に利益相反状況があり、その業務執行取締役による業務執行では株主の利益を損なうおそれがあるときは、その都度、取締役会の決定によって、社外取締役に委託(業務執行取締役が指揮命令してはならない)できることになり、かつ、それにより社外性を失わないとの規定が新設されました。
MBOや親子会社間取引がこのような状況の例として挙げられます。このような業務執行の委託の可能性を念頭に、社外取締役の人選について検討する必要があるかもしれません。

指名委員会等設置会社以外の会社の取締役(監査等委員を除く)の報酬について、取締役会は個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針を決定することになりました(個人別の報酬が定款、株主総会決議で定められている場合は別です)。なお、指名委員会等設置会社では、報酬委員会が執行役の個人別の報酬等の内容を決定します。
決定すべき方針は、固定報酬、業績連動報酬等及び非金銭報酬等の額、算定方法の決定に関する方針であり、より具体的には、業績連動報酬等の場合には業績指標、非金銭報酬等の場合には当該非金銭報酬等について、それぞれの内容や算定方法を決定しなければなりません。
また、固定報酬、業績連動報酬等及び非金銭報酬等の割合の決定に関する方針、報酬等を与える時期、条件の決定に関する方針なども決定しなければなりません。
この決定に関しては経過措置が定められていないので3月1日の改正法施行時点で決定されているべきですが、決定できていない会社は施行後速やかに決定する必要があります(2月決算の会社も同様です)。
上記の個人別の報酬等については、定時株主総会における事業報告の役員に関する事項に記載します。個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針の決定の方法、内容の概要に加えて、当該事業年度に関わる取締役の個人別の報酬等の内容が、これらの決定方針に沿うものであると取締役会が判断した理由を記載しなければなりません。
その他、業績連動報酬等に関して業績指標の内容及び選定理由、業績連動報酬等の算定方法に加えて業績指標に関する実績を記載しなければなりません。また、非金銭報酬等の内容の記載も必要です。
改正法ではD&O保険や補償契約(拙稿2020年2月15日付け「補償契約とD&O保険」参照 )についての規定も新設されました。経過措置による詳細は割愛しますが、該当する場合には役員に関する事項として事業報告に記載し、また、役員選任議案がある会社では、これらの内容の概要を参考書類に記載しなければならない場合があります。

なお、改正法では株主総会資料の電子提供制度(簡単に言えば、株主に総会資料の内容を掲載したホームページのアドレスを招集通知に記載して通知すれば書面提供を省ける制度)が新設されましたが、これが施行されるのは再来年になりそうです。