部下への暴行等を行った地方公共団体職員の分限免職処分についての最高裁判例
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<ポイント>
◆分限免職処分には解雇の場合と同様に慎重な判断が必要
◆原審では行為者に事前の注意・指導がなかったことが重視された
◆悪質な暴力行為等にはこれからも厳しい処分が許されると思われる

今回は、地方公務員の分限免職処分(免職は職を失わせること)についての最高裁判例(2022年(令和4)年9月13日)について解説します。

結論から述べると、最高裁判所は、分限免職処分が違法であると判断した広島高等裁判所の判断を、違法なものとして判決を取り消し、被上告人の請求を棄却しました。
つまり、免職処分は有効であると、最高裁判所自ら判断しました。

本件の被上告人(一審原告)は、上告人たる地方公共団体の消防職員であり、部下への暴行等の悪質な違法行為を繰り返したことにより、その職に必要な適格性を欠くとして、地方公務員法に基づき、分限免職処分を受けたことを不服として、地方公共団体を相手に、免職処分の取消しを求めました。
被上告人は、約5年間を中心に、部下等の立場にあった約30人に対し、暴行(一部刑事罰が科されています。)、暴言、極めて卑猥な言動、報復の示唆等約80件の不適切な行為があったとされています。
暴行の一部にはなりますが、相手を羽交い絞めにして太ももを強く膝で蹴る、顔面を手拳で10回程度殴打する、約2キロの重りを放り投げて頭で受け止めさせるなどの、ひどいものです。

原審である広島高裁は、(1)上告人の消防組織においては、公私にわたり職人間に濃密な人間関係が形成され、職務柄、上司が部下に対して厳しく接する傾向にあったこと、(2)被上告人には、この免職処分に至るまで自身の行為を改める機会がなかったことからして、単に被上告人個人の、簡単に矯正することのできない持続性を有する素質・性格等にのみ起因して行われたものとは言い難いから、被上告人を分限免職処分にするのは重きに失するとして、免職処分は違法であり、この処分を取り消すべきであると判断しました。つまり民間企業でいうところの解雇無効との判断です。

しかし、最高裁は、この判断を覆し、免職処分を有効としました。
その理由としては、長期間にわたる悪質で社会常識を欠く一連の行為に表れた被上告人の粗野な性格につき、消防職員として要求される一般的な適格性を欠くとみることは不合理ではなく、各行為の頻度等も考慮すると改善の余地がないとみることにも不合理な点は見当たらないなどと判断しました。

一般的な常識からすれば、このような粗野な行為を繰り返す人物を免職させるのは当然と思われますが、原審は、もともとの特殊な職場の風土や免職処分という処分の重大性から指導等の機会がなかったことを重視し、処分を無効としたものと思われます。
しかし、昨今のパワー・ハラスメントをめぐる懲戒処分や分限処分の流れを見ても、最高裁の判決が妥当と思われます。
むしろ、他の職員の労働環境や心身の危険性を考えるとなぜ原審のような判断がなされたのかには疑問を禁じえません。

職務指導上必要な言動に対する処分については、その文脈等からの慎重な判断が必要でしょうが、暴力行為やセクシャルハラスメントについては、仮に行為者が十分な教育を受けていなかった場合であったとしても、一般的な判断能力を有していればその善悪は理解できるはずですから厳しい処分をもって臨むべきと思われます。