株主総会資料電子提供の開始にあたって
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<ポイント>
◆書面交付請求に対する電子提供措置事項記載書面の簡素化ができる規則改正があるかも
◆2023年の株主総会ではフルセットデリバリーを選択する会社が相当数見込まれる

株主総会資料の電子提供制度は、簡単にいうと、総会の日時・場所や議題等を記載したいわゆるアクセス通知を株主に送るだけで、株主総会資料をインターネットを用いて提供できる制度であり、その内容は「令和元年会社法改正(第1回)株主総会資料の電子提供制度」(第1記事)、「2022年6月株主総会の留意事項」(第2記事)、「株主総会資料電子提供制度の施行」(第3記事)で解説してきましたが( https://www.eiko.gr.jp/lawcat/kaisya/ 各項ご参照)、本稿では、主として書面交付請求についての補足説明と現在進行中の会社法施行規則改正について述べます。

電子提供制度は、2023年3月1日以降に開催する株主総会から実施されます。
株主は、電子提供措置事項記載書面の交付を請求することができますが、書面交付請求に関する規定についてはすでに(2022年9月1日から)適用されています(第3記事参照)。
書面交付請求については、議案などを除く一定事項は定款で定めることにより電子提供措置事項記載書面から記載を省くことができます(第1記事参照)。
この記載を省くことのできる事項の範囲を拡大する方向で会社法施行規則が改正されようとしています。この改正がされれば、事業報告に記載すべき事項のうち(1)重要な資金調達、設備投資、事業の譲渡、吸収分割または新設分割、他の会社の事業の譲受け、合併等についての状況、(2)重要な親会社および子会社の状況、(3)会社役員の氏名、(4)会社役員の地位および担当、(5)会社役員の報酬等に関する事項以外の事項や、たとえば単体・連結の貸借対照表、損益計算書が省略できることになります。
改正後の規則は公布の日から施行されることが予定されていますので、同日以降に株主総会を開催する予定の上場会社は、この改正規則の施行をにらんで対応を検討するべきと思われます。

会社は、株主に対してアクセス通知だけを送るのか、従来と同様の資料を送るのか(フルセットデリバリーという言葉が使われるようになったので本稿でもそれに倣います)、その中間のどの程度の資料を提供するのかを決める必要があり、書面交付請求に対応してどの程度の事項を省略するかを検討する前提となると思われます。
書面交付請求は基準日(6月総会の上場会社であれば3月末)までにする必要があるところ、会社によっては書面交付請求が0の場合もあろうと思いますが、書面交付請求の有無、数にかかわらず、会社は株主に送る資料の有無、範囲についての検討は必要です。
すでに対応を決めている会社もあるようです。商事法務2309号に掲載された調査では2022年10月時点でアンケートに答えた上場会社の3分の1強がフルセットデリバリーを予定しているようであり、アクセス通知のみを予定しているのはごく少数のようです。混乱を避けるために初年度は従来通りにすることにしたのかもしれません。
書面交付請求に対して、仮に電子提供措置事項について省略をしないとすれば、ウェブサイトに掲載しているPDFファイルをそのまま印刷することが考えられます。その場合、ウェブサイトはカラーでも、書面は白黒で会社法上は問題ないといわれています。

会社法上、アクセス通知は全株主に送らなければならないところ、アクセス通知に記載すべき事項と書面交付請求に対する電子提供措置事項記載書面に記載すべき事項は株主総会の日時・場所、議題、書面投票・電子投票に関する事項が重複しています。
そのため、両者を網羅した「一体型アクセス通知」が全国株懇連合会により制定されています。
書面交付請求しなかった株主には「一体型アクセス通知」を送付し、書面交付請求した株主にはこれとその他の要記載事項を記載した書面を送付することが考えられます。

電子提供制度に向けて定款(第2記事参照)や株式取扱規則(第3記事参照)についての対応は完了していると思いますが、実際に電子提供を開始するにあたっての細かな実務的な対応については上記のようなアンケート結果や先行事例等を参照する等、担当者は情報収集を続ける必要がありそうです。