株主総会のIT化について
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<ポイント>
◆ウェブ開示、電子投票制度の採用が増加
◆電磁的方法による株主総会招集通知の採用は低調
◆議決権電子行使プラットフォームの採用も増加

2011年6月の定時株主総会が終わりましたが、インターネットを利用したいわゆるウェブ(WEB)開示制度や電子投票制度を採用した会社が増えてきているようです。
これは、経済産業省が東日本大震災後に「当面の株主総会運営について」というガイドラインの中でウェブ開示や電子投票制度の採用を勧めたことや震災によるエコロジー意識の高まりがその一因であろうと思います。

ウェブ開示とは、株主総会招集通知に添付する事業報告や計算書類の一部をインターネット上のウェブサイトに掲載し、そのURLを株主に通知することにより、書面での情報提供を省略できる制度のことです。
省略できるのは、たとえば事業報告の「取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制その他業務の適正を確保するための体制」や計算書類の「個別注記表」、「連結注記表」です。
採用社数は、商事法務の調査によれば一昨年14社、昨年44社となっており(今年の採用社数は現在のところ不明ですが増加しているものと予想されます)、容易に印刷代や郵便代の削減が期待できることから増加傾向にあるようです。
ウェブ開示をするためには、定款でウェブ開示ができる旨の規定が必要となりますが、株主の承諾は必要ありません。

ウェブ開示と似て非なる制度として、いわゆる「電磁的方法による株主総会招集通知」があります。
株主総会の招集の際に、招集通知、事業報告や決算書類等の添付書類、参考書類の全部を電磁的方法で送信することができる制度です。
これに対して、ウェブ開示ではウェブサイトに掲載できる資料以外は書面で送付する必要があります。
電磁的方法による株主総会招集通知の送信をするためには、株主の承諾が必要です。
また、この承諾をした株主も、会社に対して参考書類を書面で交付することを請求することができます。
多数の株主がいる上場会社では、株主の多くが電磁的方法による株主総会招集通知の送信を承諾しないこと、また、参考書類の書面交付を請求することを想定して準備する必要があることから、結局、印刷代や郵便代の削減の効果は低いため、この制度はあまり利用されていません。
商事法務の調査では平成22年6月の株主総会でこの制度を採用した会社は、1868社中38社にとどまり、しかも減少傾向にあるということです。

また、招集通知発送後、株主総会の前日までに事業報告、計算書類、参考書類に修正すべき事項が生じた場合に、修正後の事項をンターネット上のウェブサイトに掲載することができます(いわゆるウェブ修正)。
ウェブ修正をするためには、修正事項を掲載するウェブサイトを招集通知に記載しておかなければなりません。
簡便に修正できるため、上場会社の多くがウェブ修正を採用しています。

上場会社の株主は、通常、株主総会会場に行かなくても委任状や議決権行使書面によって議案ごとに賛否の投票ができます。
なお、株主1000人以上の会社は、原則として株主に議決権行使書面を交付しなければなりませんが、1000人未満の株主数の会社でも、多くの場合、株主に議決権行使書面を交付しています。
それらに加えていわゆる電子投票制度があり、インターネットを経由した議決権行使を認めている会社もあります。
電子投票制度を採用した上場会社は会社指定の議決権行使ウェブサイトとID、パスワードを招集通知に記載して株主に知らせ、株主は同サイトにおいて議決権を行使するのが一般的です。
電子投票制度を採用した会社も書面投票制度を併用していることが多く(株主1000人以上の会社は当然に併用となります)、二重に議決権を行使したときは電子投票と書面投票のどちらを優先するかを予め決めていることが多いようです。

証券取引所は上場会社に対し、機関投資家向け「議決権電子行使プラットフォーム」の採用を勧めています。
「議決権電子行使プラットフォーム」とは、東京証券取引所と日本証券業協会が資本の半分を出資する株式会社ICJが運営するインターネット上のウェブサイトです。
「議決権電子行使プラットフォーム」による議決権行使は電子投票を利用して行うので、「議決権電子行使プラットフォーム」を採用する会社は電子投票制度を採用する必要があります。
「議決権電子行使プラットフォーム」を採用するメリットは何でしょうか。
株主名簿に株主として記載されていない国内外の機関投資家(実質上の株主)は、上場会社から招集通知などや議決権行使書面を直接に受け取ることはありません。
機関投資家は株主名簿に株主として記載されている信託銀行など(名義上の株主)を通じて招集通知などを受領し、また信託銀行などに指図して議決権を行使することになりますが、これらをするのに時間と手間がかかるという問題があります。
その結果、機関投資家としては議案の検討に十分な時間がなく、一方上場会社は株主総会直前になって初めて機関投資家による議決権行使結果を知るという状態でした。
しかし、「議決権電子行使プラットフォーム」を採用すれば、名義上の株主である信託銀行などがプラットフォーム(ICJ)に機関投資家の実質上の保有株式数等の情報を提供し、機関投資家はプラットフォームを通じて招集通知発送と同時に株式を保有する会社の議案の内容を知ることができます。
また、機関投資家はフラットフォームに投票指図をすることにより、いわば自動的に信託銀行などが同指図に従った電子投票制度による議決権行使をしたことになり、簡単、迅速に議決権行使ができます。
また、上場会社としては国内外の機関投資家の議決権行使結果を早く知ることができることも期待できます。
「議決権電子行使プラットフォーム」を採用している会社は徐々に増えており、平成23年(2011年)7月1日現在で394社とのことです。