内部通報Q&A 通報者の立場から(その1)
【関連カテゴリー】

<ポイント>
◆「部署内解決」をめざし、それが困難なときに内部通報に踏み切る
◆内部通報は「社員の義務」であると考えることが望ましい
◆会社に名前を知られたくないときは社外窓口(弁護士)を利用するのがよい

本連載の今までの記事で、内部通報制度に関する全般的理解は得られたと思います。
今回から数回にわたり、内部通報に関係するそれぞれの立場からQ&Aの形で問題点を取り上げます。すでに述べたことと重複する部分もありますが、復習と補足をかねて解説していきます。
今回はまず通報者の立場からのQ&Aですが、これはQが多いので、今回と次回の2回に分けて。そのあと、通報窓口の立場から、中間管理職の立場から、そして、経営者の立場からのQ&Aを取り上げます。

まず、通報者(仮にAさんとします)の立場からのQ&A、その1

事例を設定します。Aさんは同じ職場のBが不正行為を行っていることを察知しました。Aさんは何とかしなければならないと考えています。もちろん、Bに直接忠告し、止めさせることができればよいのですが、それは無理なので、何らかの方法で会社に事実を認識してもらい是正してもらう必要があります。
そこで、その方法として内部通報制度を考えています。
ここで、Aさんが抱く疑問や迷いが「Q」です。

Q1 上司に報告し相談すべきですか、それとも内部通報制度によって通報するべきですか?

A まず、直属の上司に報告し、相談するべきです。
それを受け止め、すぐに適切な処置を取るのが管理職の任務です(本来なら自分がBの行為を察知するべきでした)。通常なら、上司はすぐに事実を把握し、Bに注意・叱責等を行うとともに、必要に応じて上位の管理職等に報告するでしょう。
逆にいえば、そういう管理職たる上司の立場を無視して、いきなり業務ラインとは別の内部通報窓口に通報するのは例外的な場合です。効率的に解決をはかるためにも、通常の業務ラインによる「部署内解決」を優先すべきです。

Q2 Bの不正行為は上司から指示されて行っているか、上司も黙認している様子です。どうすればいいですか。

A その場合はその上位の管理職(課長の上の部長など)に報告し、相談することを考えてください。それも部署内解決の一環です。

Q3 直属の上司にBのことを報告しましたが、上司はまじめに取り合ってくれず、その後も何の行動を取りません。どうすればいいですか。

A Q2の場合と同様、その上位の管理職(部長など)に報告・相談することを考えてください。
「上司による報告の握りつぶし」はときどきあることです。逆にAさんに「よけいなことを言ってくるな」などと筋違いの発言をする上司もいます。
上位の管理職に報告・相談することも困難と思われる場合は、それ以上に悩む必要はありません。さっさと内部通報窓口に通報するべきです。内部通報窓口(事務局)の方が迅速、適切な行動を取ってくれます。

Q4 部署内解決が困難な場合、不正行為を知った社員は内部通報をしなければならないのですか。内部通報をすることは社員の義務なのですか。

A その会社の内部通報規程などでそのように定められていれば当然ですが、明文で定められていなくても「内部通報は社員の義務」と考えるべきです。
部署内解決の適当な手段が見当たらないような場合は、内部通報するべきです。もし、AさんがBの不正行為を知りながら何もしないとすれば、会社としてはBの不正行為を認識できず、それを止められない状態が続きます。その結果のちに「企業不祥事」として大問題に発展するかもしれません。そうなれば、AさんはBの不正行為を知りながら「見て見ぬふり」をしていたとして、周囲から批判や非難が向けられることになるでしょう。場合によっては、Bの不正行為に間接的に荷担したとまで言われかねません。
ところで、不正行為を目の当たりにして「見て見ぬふり」をすることはコンプライアンス精神に悖る行為ですが、これを会社がどのように咎めるかはそれぞれの会社の経営姿勢や企業風土にかかわる問題であり、具体的にはどのようなルールが決められているかによります。それを咎めるとしていない会社もありますが、コンプライアンス規範や就業規則等に通報義務を明記してある会社もあり、明記しつつも制裁までは科していない会社もあり、制裁まで明記してある会社もあります。
いずれにしても、「不正を見て見ぬふり」は良心的な社会人・企業人として好ましいことではありません。ルールや制裁の有無にかかわらず、「通報は義務」と考えて行動した方がよいと言えます。

Q5 会社に通報者としての名前を知られたくないのですがどうすればいいですか。

A 匿名の手紙や電話によるいわゆる「匿名通報」は、客観的に見て好ましいことではありません。まず、受理する側は匿名通報に対して懐疑的、警戒的になります。通報者が本当に問題部署の社員なのか、社員でもない他人の「なりすまし」ではないのか、内容も虚偽かもしれない、不純な動機に基づくものかもしれない、などの疑問が払拭できず、それを確かめる方法もないからです。また、受理後の調査や結果報告などについても通報者とコミュニケーションがとれないことが大変不便です。そのために、会社によっては匿名通報は受理しないというルールにしたり、受理しても「不対応扱い」にしたりする場合もあります。
匿名性が尊重されつつ、上記のような欠陥をカバーする方法は以下のとおりいくつか考えられます。当連載においては、これらのうちとくに(1)を推奨しています。
(1)社外窓口(弁護士)へ通報し、その中で「会社に対しては匿名」という希望を明記する方法。
窓口弁護士には通報者の名前、部署、連絡先等を明らかにするが、弁護士から会社に対しては通報者の名前やその他通報者が特定される情報は伝達しない、という方法です。弁護士は職業的に守秘義務があり、極力通報者のその意向を尊重しながら、受理後の手続を進めていくことになります。
(2)通報者が自分の依頼する弁護士(代理人)を通じて、社内窓口または社外窓口(弁護士)に内部通報を行う方法。
代理人弁護士は通報窓口に対し自分の名前を明らかしますが、依頼人(実質的通報者)の名前は匿名とします。
この場合の弁護士費用はどうなるか、などの問題はありますが。
(3)通報者が「ハンドルネーム」を用いてメールによって通報をする方法。
真実の名前を伏し、通報者を特定できない点では「匿名通報」であり、受理側の懐疑的、警戒的対応は解消されないものの、記載されたメールアドレスにメールバックすることによって、一定のコミュニケーションをはかることができます。
これと類似の方法は電話によっても可能ですが、電話という通報手段が別の理由で欠点があるのでこれはお勧めすることはできません。

Q6 通報しようとしている事実が不正行為・違法行為と言えるかどうかに自信がなく、内部通報することが適切かどうか迷っています。どうすればいいですか。

A 社外窓口(弁護士)に通報し、「事前相談を希望する」と伝えてください。
内部通報制度に「事前相談制度」を明記している例はまだほとんど見ませんが、実際には、社外窓口(弁護士)にこの種の通報が寄せられることは少なくありません。つまり、一応内部通報の形をとっているが、通報者の意思としては、もし記載の事実が不正行為、違法行為に該当するのであれば、正式な内部通報として受理してほしい、ということなのです。
そういう通報のうち、経験的には、約半数が不正行為ありと判断し、内部通報として受理することになり、あとの半数は、不正行為等には該当しないと判断され、それを通報者に説明したうえ、通報者が内部通報を撤回しています。