無関心ではいられない内部通報制度(第8回)~公益通報者保護法改正その他の動向と実務上の影響

 吉本 達哉

2021年05月01日

<ポイント>
◆1号通報において守秘義務の規定が新設された
◆一定規模を超える事業者は公益通報対応業務従事者を定める義務を負う
◆「指針」に従って公益通報対応業務従事者を定めなければならない

今回は、本改正により新設された公益通報対応業務従事者の守秘義務について解説します。

内部公益通報を活性化させるためには、通報者の情報が漏えいして解雇その他不利益な取扱いや嫌がらせ等を受けるおそれが払しょくされていることが必要です。
そこで、本改正により、1号通報(役務提供先、役務提供先が指定した者への通報)において、守秘義務の定めが新設されました。
1号通報を受け、当該通報に係る通報対象事実の調査をし、その是正に必要な措置をとる業務(公益通報対応業務)に従事する者(公益通報対応業務従事者。以下では単に「従事者」といいます)、または従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならないと定められました。内部公益通報の内容そのものではなく、通報者を特定させる情報が対象であることに留意してください。
従事者または従事者であった者が守秘義務に故意に違反した場合、30万円以下の罰金という刑事罰が科されることになります。

常時雇用する従業員が300人を超える事業者は、かかる従事者を定める義務を負います(なお、そうでない事業者は努力義務を負うにとどまります)。
この義務に基づき事業者が取るべき措置については、内閣総理大臣(授権により消費者庁長官)が「指針」を定めることになっています。したがって、上記の基準に該当する事業者は、指針の内容も熟知しておく必要があります。指針は未完成ですが、消費者庁が指針案を公表していますので、以下ではその内容をご紹介します。

現状、指針案には2つの規定が設けられており、
(1)内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めなければならない。(2)事業者は、従事者を定める際には、書面により指定をするなど、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない。
とされています。

(1)の趣旨は、事業者は、コンプライアンス部、総務部等の名称にかかわらず、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者であるかを実質的に判断して、必要が生じた都度、従事者として定める必要があるということです。
他方で、社内調査等におけるヒアリングの対象者、職場環境を改善する措置に職場内において参加する労働者などであって、公益通報の内容を伝えられたにすぎない者等は、公益通報対応業務を行っているわけではないことから、たとえ調査上の必要性に応じて公益通報者を特定させる事項を伝達されたとしても、従事者として定めるべき対象には該当しません。

(2)は、書面等により明確化することを求めているものであり、従事者以外の者に誰が従事者かを明らかにするよう求めるものではありませんが、通報を促進するためには従事者以外の労働者、役職員及び退職者に対しても、誰が従事者か明らかにすることが望ましいとされています。
対応業務従事者は、たとえば「法務部長」というように規定することも可能ですが、必ずしも予め決めておく必要はなく、通報の都度コンプライアンス委員会が従事者を定めることも可能です。ただ、内部通報がされた場合、それが公益通報に該当するかどうかは判断に迷う場合があり、それを考えれば特定の役職の者を従事者とするというように定めておく方がいいかもしれません。

このような指針とは別に、今後、従事者が公益通報者を特定しうる情報をいかに管理し、調査のために利用するか等、守秘義務を守りつつ業務を行うためのガイドラインも整備される予定です。
また、上記のとおり、従事者は、正当な理由があれば守秘義務を免除されますが、いかなる場合に正当理由となるのかについても、改正法施行までに明らかにされる予定です。
特に300人以上の従業員を雇用する事業者は、今後公表されるこれらの情報を注視しておく必要があります。