無関心ではいられない内部通報制度(第9回)~公益通報者保護法改正その他の動向と実務上の影響
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<ポイント>
◆改正法に対応するために内部通報規程の改訂を
◆役員、退職者を通報者に含める、対応業務従事者を定める、トップによる違法行為対応等が必要

今回から2回に分けて、内部通報規程の改定について、これまでの回で取り上げた点を含めて解説します。

改正法では、常時使用する労働者の数が300人を超える事業者は、公益通報対応業務従事者を定め、内部公益通報対応体制を整備する義務を負うことになりました。
まず、通報受付、調査、是正措置に従事する者(公益通報対応業務従事者)を具体的に定めなければならず、この者は公益通報者を特定させる事項の管理もしなければなりません。
また、体制整備義務については、指針で求められる事項を内部規程において定め、運用しなければなりません。
ただし、体制整備義務については、民間事業者向けガイドラインにそった内部通報規程を整備・運用している事業者は、基本的にはそれで対応できています。
たとえば、指針では、公益通報をする者を保護する体制の整備として、不利益な取扱いを防止する体制の整備、範囲外共有を防止する体制の整備が必要となりますが、民間事業者向けガイドラインはこれらについて詳細に述べており、ガイドラインにそった規程であればほぼ充足しているといえます。
その一例として、指針では、公益通報に関する記録の保管方法やアクセス権限等の規程における明確化を求めていますが、ガイドラインにおいても通報事案に係る記録・資料は施錠保管する、データとして管理する場合には閲覧可能者を必要最低限度にして閲覧履歴を記録するとされています。

しかし、以下の事項について改定の検討が必要です。
内部通報規程にしたがって通報がされた場合、まず、公益通報かどうかを判断する必要があります。そのため、たとえば「内部通報担当窓口は、通報が公益通報もしくはその疑いがあると判断した場合は、ただちにコンプライアンス委員長に通知しなければならない。」として、必要に応じてコンプライアンス委員会等が判断することが考えられます。
公益通報と判断された場合、上記のとおり従事者を定める必要がありますが、内部通報規程では、通報窓口や調査担当について、たとえば「法務部内に設置する内部通報事務局」というように部署を定めていても具体的な担当者が定まっていないこともあります。
これでは改正法の求める従事者を明確に定めていることにはなりません。部署ではなく、具体的な担当者を定める必要があります。また、従事者に就く者が明確に認識できるよう書面による等が必要とされています。
内部通報規程により、従事者として、たとえば「法務部長」というように規定することが考えられますが、必ずしも予め決めておく必要はなく、「コンプライアンス委員会は公益通報対応業務従事者を定め、同従事者に対して書面により通知する」というように規定することも可能です。

改正法により公益通報の保護の対象が1年以内の退職者と役員に拡張されました。内部通報規程では、たとえば「通報者となり得るのは、当社及び当社関連会社において勤務する社員、契約社員、派遣社員、パート従業員、アルバイトとする」というように労働者に限っている事業者があり、公益通報についてはこれを拡張する必要があります。
しかし、事業者によっては、従業員の多数がパート・アルバイトのところ、ほぼいわゆる正社員のところと千差万別であり、単純に内部通報規程の通報者の範囲を広げていいかは検討が必要です。
内部通報の対象は「当社の業務に関する違法行為、不正行為、就業規則等社内規程に違反する行為、反倫理的行為及びそれらと疑われる行為」というように、公益通報の対象よりは格段に広くなっており、退職後1年間は内部通報できるとすれば収拾がつかなくなる可能性もあります。
そこで、公益通報についてのみ役員と退職後1年以内の従業員とすることは検討可能と思います。ただ、民間事業者向けガイドラインでは、通報窓口利用者として役員及び退職者を含むよう推奨されているので、従業員構成にもよりますが、安易に制限するのは慎むべきでしょう。