無関心ではいられない内部通報制度(第6回)~公益通報者保護法改正その他の動向と実務上の影響

 井上 彰

2021年04月15日

<ポイント>
◆役員が公益通報をしようとする場合、まずは内部での是正措置前置が原則
◆保護内容は、解任を含まず、解任された場合の損害賠償請求だけ

連載第2回で公益通報者の範囲が退職者と役員に拡大したことを解説しましたが、役員については特別な制度となっているので改めて詳しく解説します。

役員を公益通報者に加えた理由は、事業者の経営に携わるものとしてその企業の内情をよく知ることができるので、何か不正があることにいち早く察知できる立場にあり、そのため、実際、役員からの通報により不正の是正がされた実態があることです。
公益通報の保護の対象とすることにより通報が活発になることを期待したものといえます。
また、役員も、内部通報等をすることで解任や損害賠償請求をされるなどの不利益扱いを受ける事例が生じていることも挙げられます。
役員の範囲としては、取締役、理事、監査役、監事等ですが、会計監査人は含まれません。退職した役員は保護の対象とされていませんが、改正にあたっては役員であった者の保護についても議論の対象となったようですので、将来的に保護対象に加わる可能性はあると思われます。

役員に対する保護の内容としては、解任は含まれず、解任された場合の損害賠償請求だけとなりました。法人と役員は信頼関係を基礎としており、たとえば株式会社のように、理由がなくともいつでも解任できるためです。
ただ、信義誠実の原則などの一般法理により、公益通報をしたことを理由とする解任の無効は否定されておらず、法人の種類によっては一般法理により解任が無効となる可能性はあります。
なお、会社法により会社の役員は正当な理由なく解任された場合には損害賠償請求できることになっていますが、改正法ではこの種の規定の適用は妨げられないとしています。

役員が行政機関等(2号通報)や報道機関など(3号通報)の外部への通報をしようとする場合の保護要件は労働者より厳しくなっています。
役員は、事業者に対して善管注意義務、忠実義務を負っており、事業者内部で不正やその兆候を発見した場合、その組織内で法的に許された権限を行使して自ら是正しようと努めることが原則であるからです。たとえば、取締役会設置会社の取締役は取締役会を通じて監督する権限、監査役は違法行為等の差止請求権があります。
そのため、役員による外部公益通報の保護要件として、善管注意義務をもって行う、通報対象事実の調査及びその是正のために必要な措置(調査是正措置)をとることに努めたことが必要になります。
しかし、調査是正措置をとることに努めている間に個人の生命・身体等の重大な利益が害される急迫の危険があると信じるに足りる相当な理由がある場合には、被害の甚大さからできるだけ早く是正する必要があり、この場合には調査是正措置をとる必要ありません。
同様に、内部での調査是正措置を取っている間に証拠隠滅がされるおそれがある場合も例外にすべきではないかという議論もありましたが、これは定められませんでした。私見ですが、一般に労働者に比べて役員の調査権限は広く、証拠の保全も比較的容易であると考えられるからと思われます。
なお、2号通報の場合、改正法では、労働者(退職後1年以内の者を含む)については通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると思料し、かつ一定の書面を提出する場合に保護が拡張されましたが、役員の場合には適用されません。

いかなる場合に調査是正措置をとることに努めたことになるかについては明確にされていません。取締役会や理事会等への付議が該当することは当然でしょうが、これら以外にいかなる場合が該当するのかについては今後の議論と事例の集積がまたれます。
内部通報規程で役員の調査是正措置の内容を明確にすることは考えられるところですが、これについてもどう規定するかは今後の議論と研究が必要です。