無関心ではいられない内部通報制度(第5回)~公益通報者保護法改正その他の動向と実務上の影響
執筆者:
2021年04月01日
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<ポイント>
◆通報者の探索や通報者の秘匿のために情報の範囲外共有は許されない
◆制度を実効化するために組織内での研修その他の周知等が重要

前回に引き続き、公益通報体制整備義務について解説します。

内部公益通報においては、通報をしやすくするために、通報者を守る仕組みが非常に重要です。
まず、公益通報を理由とした不利益扱い(解雇・減給など)の禁止、そういう事態が発生していないかの把握(通報窓口への連絡など)、適切な救済・回復措置をとることの定めが必要です。
また、通保者を探索することは許されず、通報者を探索することを防ぐ措置をとることの定めが必要です。ただし、匿名での公益内部通報の場合、通報者を特定しなければ事案解明に必要な調査が実施できないことなどはあり、このような場合は例外的に許されるとすべきですが、通報者を探索する必要性・相当性は厳密に検討すべきです。
さらに、通報者を特定させる事項については、必要最小限の範囲を超えて共有することのないようにしなければなりません(必要最小限の範囲を超えた情報共有を「範囲外共有」といいます)。
そのため、範囲外共有を防ぐ措置、範囲外共有があった場合の適切な救済措置が定められていなければなりません。通報者探索阻止の実効性を高めるためにも非常に重要なことです。
上記不利益扱い、通報者探索、範囲外共有が行われた場合には、被害の程度等を勘案して懲戒処分等が求められることになります。
このように、通報者の秘匿には企業は厳しく対応する必要があることから、通報者特定につながる情報の管理方法を内部規程で明確化する必要もあります。

内部公益通報体制を実効的なものにするために、事業者は公益通報者保護法や内部公益通報体制について、役職員や退職者に対して教育・周知を行わなければなりません。
具体的手段として、研修を含む多様な媒体を通じて組織の長などが制度内容等についての明確なメッセージを継続的に周知することが考えられます。
その際、権限を有する行政機関等への公益通報も保護されている点を含めて、公益通報者保護法全体の内容を伝えることが必要です。事業者内部の自浄作用は大切ですが、従業員等の公益通報手段の選択権を法が保障しているため、教育・周知を行う措置の一環として外部への通報制度も周知する必要があります。
また、内部公益通報体制や不利益扱いについて質問・相談が行なわれた場合、それに対応する旨の定めも必要です。質問・相談体制については研修等を通じて周知しておく必要があります。

通報後にその通報案件がどうなったかを通報者が知りうるようにすることも重要です。
是正措置をとったときはその旨を、調査の結果対象事実がないときはその旨を、事業者の適正な業務遂行や関係者のプライバシー等の保護に支障がない範囲で、遅滞なく通報者へ知らせる旨の定めが必要です。
それに加え、通報の受付や調査の開始についても通知する、重要な事案の場合には全社員へ状況の概要を定期的に伝えるなど充実した情報提供を行うことが望ましいといえます。
なお、監督行政機関以外の外部機関への公益通報の保護要件として、書面等による内部公益通報後20日を経過しても調査を行う旨の通知がない場合等が規定されていることはすでに解説したとおりです。

これら以外にも、内部公益通報制度に対する期待を高めて通報を促すために、運用実績の概要(内部通報全般についてで構いません)を、通報者が特定されないようにする等の配慮をしつつ、役職員に開示するとともに、通報への対応に関する記録の作成・保管、通報対応体制に対する定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて体制の改善を行うことが必要です。
上記は民間事業者向けガイドラインより具体的になっていますが、一方で今回の法改正による内部公益通報体制については中立・公正な第三者等を利用した客観的な評価には言及されておらず、指針違反が体制整備義務違反として事業者への指導・助言等の行政上の処置の対象となりうるなど違いもあって、これらがどのように統合されるのかは今後のことと思われます。
なお、内部の開示だけでなく、外部にも開示することは、実効性の高いガバナナンス体制を構築していることを対外的に示せるメリットがあることが指摘されています。