無関心ではいられない内部通報制度(第12回)~公益通報者保護法改正その他の動向と実務上の影響

 森田 豪

2021年06月01日

<ポイント>
◆制度導入済みの企業にとっての課題は運用の充実化
◆公益通報者保護法改正への対応も必要
◆新興市場からプライム・スタンダード市場への移行に際しコード適用範囲に注意

今回は「制度導入済みの企業が今後取り組むべき課題は?」という点について解説します。

2015年に制定されたコーポレートガバナンス・コードは内部通報体制の整備を求めており、上場企業を中心として大企業においては、社外窓口の設置を含めて内部通報制度の普及が進んでいます。
それをふまえつつ、制度導入済みの企業が内部通報制度に関して今後取り組むべき課題が何かを考えてみます。

今後まず必要なことは、運用をより充実させることです。
近年、東洋経済が内部通報件数の企業ランキングを公表していますが、大企業における内部通報制度の運用状況に注目が集まっていることの表れです。
「通報件数が多いからよい」と単純に評価することはできませんが、その一方で、通報件数ゼロの状態が何年も続くようであれば、制度が形骸化していないかチェックする必要があることも確かです。
見直しのポイントになるのは、制度の存在や通報窓口が社内で周知されているかどうか、通報者からみて安心して通報できるようになっているかどうかです。
制度導入時に研修会開催や社内広報をしてから年数が経ち、社内での認知度が低下していませんか?周知策は定期的に繰り返して行っていく必要があります。
また、通報者からみて安心して通報できる体制としては、通報窓口や調査担当者が情報管理を徹底していること、通報を理由とする雇用関係上の不利益処分が禁じられていることを社内広報で伝えていきましょう。また、通報窓口を社内外で複数設置することも有用です。
このほか、内部監査におけるデュアルレポートラインの考え方に準じて、通報窓口担当者が内部通報事務局への報告に加えて社外役員に対しても直接報告できるように制度設計することも検討してみてください。内部通報後の調査、是正対応が客観的な視点で検討されることを担保するともに、社外役員に機能を発揮してもらうための情報提供の方策ともなります。

次に、本連載においてすでに主要論点をとりあげましたが、内部通報制度を導入済みの企業も令和2年改正公益通報者保護法への対応が必要です。次の改正項目は特に重要です。
・役員、退職した元従業員も保護対象となる
・一定規模以上の企業に内部通報の体制整備義務が課される
・守秘義務が法定化され、違反に対し刑事罰がある
詳しくは本連載中の各記事をご覧ください。

最後に、東証の市場再編に関係する注意喚起をさせてください。
現在新興市場(JASDAQ、マザーズ)の上場企業が市場再編時にプライム市場またはスタンダード市場へ移行する場合、コーポレートガバナンス・コードの適用関係が大きく変わります。移行前はコードのうち「基本原則」5項目のみ適用されていたところ、移行後は「原則」「補充原則」を含めた全部が適用されます。(下記※)
例えばコードの補充原則2-5の1は、「経営陣から独立した内部通報窓口の設置」を求めています。従来これを実施していなかった企業は、新たに独立した通報窓口を設けるか(コンプライ)、または独立した窓口を設けないことについて説明するか(エクスプレイン)、対応方針を決める必要があります。

※ご参考
東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コードの全原則適用に係る対応について」
https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/nlsgeu000003pd3t-att/nlsgeu000005b3j7.pdf