弊所著作「実効性のある内部通報制度のしくみと運用」についての若干の補遺

 森田 豪

2020年11月15日

<ポイント>
◆上場会社を中心に制度導入が進み、通報件数も増加
◆制度導入後の運用が課題
◆公益通報者保護法の改正にも注意

当事務所所属弁護士の共著により「実効性のある内部通報制度のしくみと運用 コンプライアンス経営の“切り札”」を出版して5年余りが経過しました。同書につきましてはこちらをご参照ください。
https://www.eiko.gr.jp/komon/naibu/

私自身、最近改めて読み返してみましたが、今でもエッセンスの部分において同書の内容は価値を失っていないと感じています。そのうえで、この数年間の状況をふまえた補遺として、いくつかのことを書いてみます。

1.制度の導入、利用の状況
2015年に策定されたコーポレートガバナンス・コードは上場会社に内部通報体制の整備を求めています。これもきっかけとなり現在ほとんどの上場会社において内部通報制度が導入されています。
また、当事務所へご相談いただいた実例をみるかぎり、非上場の会社や各種法人においても内部通報制度を導入するケースが増えてきているようです。
近年は内部通報により企業不祥事が発覚するケースも多くなり、制度導入だけでなく「実際に制度が利用されているかどうか」への注目度も高まってきました。東洋経済が内部通報件数の企業ランキングを公表していることもこうした流れのなかに位置づけることができます。
制度の普及が進み、規模の大きい企業を中心として通報件数も増加傾向にありますが、内部通報制度が本当に機能するようになるための過程としては「まだ途半ば」です。
2019年4月、大和ハウスは同社が手がけたアパートなどについて建築基準の不適合があることを公表しました。この問題について従業員による内部通報は2016年時点でされており、同社が速やかに対応しなかったことに対しても強い批判がありました。
制度導入だけでなく、その後の運用を真剣に考えなければいけません。

2.認証制度
消費者庁からの受託事業として商事法務研究会が内部通報制度の認証制度を取り扱っています。現在はまだ「第三者認証制度」は運用を開始しておらず、「自己適合宣言登録制度」のみが2019年2月から受付開始されています。
「自己適合宣言登録制度」は、事業者自身が認証基準への適合をチェックしたうえで登録申請するもので、この原稿を執筆している2020年11月10日時点で85社が登録しています。まだあまり普及していません。
注意点として、認証基準には非常に多くの項目があり、形式的に捉えると社内規程が複雑になりがちです。内部通報制度の設計上、「通報しようとする人にとってわかりやすい制度であること」が大事です。登録申請する場合であっても、この視点を忘れないようにしたいところです。

3.公益通報者保護法改正
2020年の通常国会で公益通報者保護法が改正されました。施行(公布から2年以内)はすこし先のことですが、従業員300人超の事業者は内部通報体制の整備義務を課されることになり、該当する企業にとっては影響の大きい法改正です。
また、内部通報制度をすでに導入している企業も、退職者からの通報に対応する必要が生じること、通報受付や調査業務などの担当者に法律上の守秘義務が課されること(罰則あり)に注意が必要です。

上記のことが読者の皆さまの参考になれば幸いです。また、書籍へのご意見、ご感想がありましたら是非お聞かせください。