家の所有者が死亡した場合、その相続人は相続開始後も無償で住み続けられるのか
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<ポイント>
◆被相続人の許諾を得て同居していた相続人は無償で住み続けられるのが原則
◆特段の事情がある場合には無償で住み続けられない

 

1 はじめに
家の所有者が死亡した場合、その相続人は相続開始後もその家に無償で住み続けることができるでしょうか。

2 最高裁の考え方について
この問題について、最高裁は以下のように判断しています(最判平成8年12月17日より一部抜粋)。
「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。」

3 特段の事情についての若干の検討
最高裁は、使用貸借契約を原則認めつつ、「特段の事情のない限り」という限定を付しています。もっとも、この特段の事情について、最高裁は明確な判断基準を示していません。そのため、特段の事情の有無については、事案ごとに個々の事情を総合考慮して判断する他ありません。
高齢化が進んだ現代において特段の事情の有無が問題になりそうな典型的なケースとしては、被相続人が介護施設等に入所したため相続開始時には同居が解消されており、相続人と被相続人が会うこともなくなっていた場合が考えられます。

このようなケースに関して参考になる裁判例として、東京地判平成30年3月19日があります。
この裁判例の事案の概要は以下のとおりです(便宜上、事案を簡略化している部分があります)。
(1)被相続人Aは、昭和45年8月、本件建物を建築した
(2)相続人Xは,昭和46年7月頃、本件建物においてAと同居するようになった。その後、Xは一時本件建物外で居住することもあったが、遅くとも昭和63年頃からは本件建物の2階部分(以下「本件2階部分」といいます。)に居住している。
(3)Aは、平成21年4月以降、病院に入院するなどし、平成23年11月6日の死亡に至るまで本件建物には居住していない。
(4)Xは、Aの入院以降も引き続き本件2階部分に居住していたが、入院以降Aと会うこともなかった。

この事案において東京地裁は、「Aが平成21年4月に緊急搬送されて入院した以降、同人とXが会っていないことについて……AやXの意思に基づき面会をしていなかったわけではないのであるから、このことをもって、AがXに本件2階部分を無償で貸与するとの当初の意向が変化したことを認めるには至らない。」と判断しました。

この裁判例からすると、被相続人が施設等に入ったため相続開始時において同居をしていなかった、同居解消後に相続人と被相続人が会っていなかったといった事実のみでは、特段の事情があるとは認定されないようです。