国際裁判管轄の合意について

 池田 佳史

2019年05月15日

<ポイント>
◆紛争発生時の管轄裁判所の定め方には注意が必要
◆独禁法違反による請求のような場合には管轄の合意が適用されないこともある

外国会社との取引きにおいては紛争が起こったときのために、どこの国の裁判所で裁判をするか(その裁判所を「管轄裁判所」といいます)を予め契約書に規定しておくことが一般的に行われています。
国際的取引契約において、管轄裁判所に関する規定は、大雑把にいって「当事者間における本契約についての一切の紛争については、X国Y裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」という規定と「当事者間における一切の紛争については、当該紛争が本契約に起因ないし関連して生じているかどうかに関わらず、X国Y裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」の2種類の規定が見られます。
「X国」が一方当事者の自国と合意されるか、また一切の紛争を自国裁判所で裁判できるとする後者の規定が合意されるかどうかは、契約当事者間の力関係によって決まります。
この国際的な管轄裁判所に関する合意について、日本の民事訴訟法は「一定の法律関係に基づく訴え」に関してなされたものでなければ無効とする旨が規定されています。
上記規定は改正民事訴訟法(2012年(平成24年)4月1日施行)において新設されたものですが、国内の管轄裁判所に関する合意に関してはそれ以前から同旨の規定がありました。
たとえば日本企業Jとアメリカ企業Aが、上記2種類のどちらかの合意をしていて、「X国」がアメリカ国(アメリカの場合には州となるのでたとえばカリフォルニア州)の場合、JがAに対して日本の裁判所で訴えた場合にどうなるでしょうか。
前者の合意であれば、「本契約についての一切の紛争」なので「一定の法律関係に基づく訴えに関する合意」といえ、「X国」が日本国でなければ日本の裁判所は訴えを却下することになりそうです。
一方、後者の合意であれば「本契約に起因ないし関連して生じているかどうかに関わらず」ということなので「一定の法律関係に基づく訴えに関する合意」といえない可能性があります。そのため、「X国」が日本国でなくとも、日本の民事訴訟法により日本国の裁判所に管轄が認められれば、訴えは却下されることなく審理される可能性があります(当然のことですがJのAに対する訴えが認容されるかどうかは別の話です)。
東京地裁2016年(平成28年)2月15日中間判決では、後者の合意は「一定の法律関係に基づく訴えに関する合意」といえないとして、「X国」をアメリカ国カリフォルニア州とした合意により東京地裁は管轄裁判所ではないとのAの主張を退ける決定をしています。
自社にとって有利になると考えた後者の合意が反対の法律効果を有することになりました。

次に前者の合意をしている場合、「X国」が日本国でないとしても日本で裁判することが可能な場合はあるでしょうか。
契約に基づく代金不払いであるとか、商品の引渡義務違反であるような場合には同合意が有効であり、日本で裁判することはできません。
しかし、優越的な地位の濫用(独禁法違反)によって損害を被ったことから損害賠償請求するというような場合には、「X国」が日本国でないとしても日本で裁判することが可能な場合があります。
優越的な地位の濫用(独禁法違反)は不法行為と考えることもでき、いわば契約の埒外として上記合意が適用されないといえるのです。
ただし、優越的な地位の濫用(独禁法違反)の主張をすれば、上記合意に関わらず常に日本での裁判が可能となるわけではなく、優越的な地位の濫用(独禁法違反)であることが一応確からしいという心証を裁判官が得られる程度の証拠は必要ではないかと思われます。