労働審判制度について

 池野 由香里

2014年07月15日

<ポイント>
◆労働審判は話し合いによる迅速な解決を目的とする制度
◆争点がシンプルで話し合いによる解決が可能な事案に向く
◆日程がタイトなので速やかに弁護士に相談を

裁判所において、個々の労働者と事業主との間に生じた労働関係に関する紛争を解決する手段として、労働審判という制度があります。
もともと裁判所においての紛争解決制度としては、訴訟や、それに先立つ仮処分、また話合いによる解決を目指す調停という制度がありましたが、平成18年4月からそれらの手続きに加えて労働審判制度が始まっています。
今回はこの制度について自分の経験もふまえてご説明したいと思います。

労働審判は、裁判官である労働審判官1名と労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名とで組織する労働委員会が審理をし、適宜調停を試み、調停がまとまらなければ、訴訟の実情に応じた解決をするための判断(労働審判)を行います。
労働審判に対して当事者から異議申立てがあれば、いずれの当事者からの異議申し立てであっても、その審判は効力を失い手続きは訴訟に移行します。

労働審判制度は迅速かつ適正かつ実効的に紛争を解決するために設けられた制度であるため、手続きは原則として3回以内の期日で終了します。
裁判所によれば、現実にも審理に要した期間は平均約2か月半であり、話し合いによる調停成立で時間が終了する場合が多く、労働審判に対する異議申し立てがされずに労働審判が確定したものなどを合わせると、全体の約8割の紛争が労働審判をきっかけとして解決しているとのことです。

私が最初に代理人として参加して驚いたことは、労働審判官がはっきりと、「この制度は話し合いによる解決を目指す制度です。」と言っていたことです。
「労働審判」という制度名からついつい裁判官を含めた労働委員会が判断をするという点に意識がいきがちですが、審判はいわば伝家の宝刀であり、制度設計としては、最終的には審判を下す権限のある審判委員会が当事者の法律的主張や気持ちを充分に聞いたうえで、解決の方向を示し説得することで、当事者が、「裁判官や専門家がこういっているのだからこのような解決もやむをえないか」と納得して紛争解決に向かう方向に誘導しようとしているのだと感じました。

労働審判官は、手続開始時に「この審判手続きで行われたことは訴訟に移行しても一切影響がありません。」とも言っていました。
しかし、訴訟に移行した場合、裁判を行うのは裁判官であり、労働審判官と同じ裁判官が担当することはないにしても、訴訟のときの裁判官と同じ立場の法律家が判断し、説得するということは当事者にとっても代理人にとってもかなりの重みをもつ事実です。
当事者にとって、自分の主張はこうであるが、第三者しかも裁判官がみたらこのような見方もあるのか、と気づかされることは、訴訟に移行したときの経済的・時間的・事務的負担を併せ考えると、しぶしぶであっても労働審判の段階での合意による解決に向かわせやすいものだと思います。

「話し合いによる解決をめざす制度」とはいえ、最終的には審判委員会で審判を行うのですから、審判期日における初回の法律的な当事者の主張及び争点の整理は訴訟と同様に綿密に行われます。
訴訟においては何回かの期日を経たうえで争点整理が行われることが多いのですが、労働審判においては、当事者には第1回目の期日までに予想される争点に関する重要な事実や証拠の提出が求められ、第1回の期日には法律的な争点の整理が行われ、そのうえで話し合いに向けての説得が行われるので、当事者も説得されやすいのではないでしょうか。

ただ、このような手続きの性質上、争点が複雑であったり多岐にわたったりする事案は、このような早期の紛争解決を目指す制度には馴染みません。

また、当事者いずれかあるいは双方の感情的なこだわりが強く、説得に応じる可能性が全くないような事案では、仮に審判がでても、一方の意思で訴訟に移行するので、結局二度手間になってしまうため、この制度は不向きです。

労働審判制度は、争点が比較的シンプルでしかも当事者もできれば話し合いによる解決を望んでいる事案に、なじむと言えます。

なお、この手続きは期日に向けて短期間でしっかりと主張・立証の準備をする必要があるため、適切な主張・立証活動をするために、裁判所からも当事者双方が弁護士を代理人に選任することが望ましいとされています。
弁護士にとっても、労働審判の準備は一般の訴訟事件に比べて日程的にかなりタイトです。
日程や弁護士の忙しさによっては受任を断られることもあるかと思います。期日直前の依頼では対応は非常に困難です。
労働審判が申立てられた場合にはできるだけ速やかに弁護士に相談することが必要です。