<ポイント>
◆株券発行会社において株券が発行されていないケースがある
◆株券発行会社において株券発行前になされた株式譲渡は譲渡当事者間では有効
株券を発行することになっている株式会社(株券発行会社)において、株券を発行しないまま株式譲渡が行われた場合、その株式譲渡の効力はどうなるのでしょうか。
実はこのような事態が生じるのは珍しいことではありません。その原因は、端的にいえば、平成18年の会社法施行時の経過措置にあります。当該経過措置において、旧商法下で設立された株式会社については、株券を発行しない旨の定款の定めがない限り、株券を発行する旨の定款の定めがあるものとみなすこととなったのです。この経過措置を知らず、意図せず株券発行会社になっている非上場会社は相当数あると思われます。意図せず株券発行会社となっているため、株券も発行できていない、というわけです。このような会社で株式譲渡が行われた後に、譲渡当事者間の関係が悪化するなどして、株式譲渡の有効性が問題になるケースが多いのです。
さて、株券発行会社における株式譲渡については、会社法128条が次のように定めています。
(株券発行会社の株式の譲渡)
第百二十八条
1 株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、自己株式の処分による株式の譲渡については、この限りでない。
2 株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。
1項によると、株券発行会社においては、株券を交付しなければ株式譲渡の効力が生じないとされています。1項だけを単体で見ると、特に疑問は生じないと思います。ところが、2項を見ると、株券の発行前の株式譲渡は「株券発行会社に対し」その効力を生じない、とされています。あえて「株券発行会社に対し」定められていることからすると、譲渡当事者間では効力が生じるのか、という疑問が生じます。
この点について、最高裁令和6年4月19日判決は、次のように判示しました。
1 株券の発行前の株式譲渡は、譲渡当事者間においては、当該株式に係る株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはない
2 譲受人は、譲渡人に対する株券交付請求権を保全する必要があるときは、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することができる
3 譲受人は、株券発行請求権を代位行使する場合、株券発行会社に対し、株券の交付を直接自己に対してすることを求めることができる
判示1は上記の疑問に答えるもので、株券の発行前の株式譲渡も、譲渡当事者間では有効ということです。
判示2、3について解説すると、まず、株券発行会社において株券が発行されていない場合、株主は会社に対して株券を発行するよう請求する権利(株券発行請求権)があります。そして、上記の会社法128条2項により、株券発行前に株式譲渡がなされた場合、株式譲渡は会社に対して効力を生じません。そのため、会社との関係における株主は、株式譲渡後も譲渡人のままということになります。したがって、株券発行請求権も、譲渡人に帰属したままということになります。判示2は、この譲渡人の株券発行請求権を譲受人が譲渡人に代わって行使できると判断したものです。そして、判示3は、判示2により株券発行請求権を代位行使するにあたって、株券を譲渡人ではなく譲受人に直接交付するよう会社に求めることができる、と判断したものです。