共有株式と令和3年民法改正について
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<ポイント>
◆条文化された共有物管理者選任要件は権利行使者選任要件の根拠となりうる
◆非協力的な共有株主については改正民法の手続きの利用が可能に
◆共有者内部の取り決めに反する行為の有効性については対象共有物によって差異あり

令和3年4月21日に可決された「民法の一部を改正する法律案」(令和3年民法改正といいます)は令和5年4月1日施行が予定されており、いわゆる所有者不明土地問題を重要課題として行われたものですが、民法の共有に関する規定も改定されています(改正法の概要については当事務所のHPの「再度の民法大改正!物件法等について(第1回から第7回)をご覧ください」。
https://www.eiko.gr.jp/lawcat/7-11-minji/ ご参照)
共有は不動産などに限らず株式についてもたとえば相続などによって生じます。
本稿では令和3年民法改正の共有株式に対する影響を概観したいと思います。

共有株式については会社法106条により、権利行使するためには共有株主の中から権利行使者を定めて会社に通知しなければなりません。
従来から共有者の持分の価格の過半数によって共有株式の権利行使者を定めることができると考えられてきましたが、これについての明文の規定はありませんでした。
共有物の管理者についても、従来から共有物の管理者を選任することができ、上記と同様に共有持分の価格の過半数によると考えられてきたものの明文規定はありませんでした。
令和3年民法改正では、共有物の管理者の選任、解任は上記と同じ要件で可能であることが明文化されました。これによって、共有株式の権利行使者の指定についても条文上の手がかりを得たといえると思います(私見)。

共有株式について、共有物の管理者の選任と権利行使者の指定は同じ要件(持分の価格の過半数)といえますが、共有物の管理者を選任するとしても、権利行使者が指定されたときと同様に会社に対する通知が必要です(なお、共有株式については共有物管理者の選任は認められないという考えもあるかもしれませんが、共有物管理者の規定の適用を排除する必要はないとの立場を採りました)。
共有株式の権利行使者の指定については、共有株主間の協議が必要かどうかが議論されており、協議必要を前提に、多数派が実質的な協議をせずに行った権利行使者の指定を権利濫用であるとした判例があります。
令和3年民法改正の審議過程では共有物の管理に関する手続きについて規律を設けるかどうかの議論がされ、当初は共有者全員での協議を経ることを要しないことを条文等で明確にすることが想定されていましたが、最終的には規律を設けることにはなりませんでした。
今後の議論次第では共有株式の権利行使者の指定における協議の必要性についても影響があるかもしれません。ただ、実務的には実質的な協議を行って、紛争を避けるようにすべきと考えられます。

共有株式の権利行使者の指定において、一部の共有者が賛否を明らかにしないなど非協力的である場合や所在不明者がいる場合も考えられます。
令和3年民法改正により共有物の管理について、相当の期間を定めて賛否を明らかにするよう催告した場合、その期間内に賛否を明らかにしない共有者については、裁判所は当該共有者を母数から除いた過半数の賛成で当該管理事項を決めることができるようになりました。所在不明者についても同様です。
この規定は共有株式の権利行使者の指定においても適用される可能性があります。

ただし、共有物の管理者、共有株式の権利行使者が、共有者内部の取り決めに反した場合のように権利行使に必要な権限を有していなかった場合、そのような行為、権利行使の有効性には違いが生じると考えられます。
令和3年民法改正では、上記のような場合には共有物管理者の行為は善意の第三者(無過失までは要しないとされています)には対抗できないとされています。
一方、共有株式の権利行使者の場合には、原則として当該権利行使は有効であるが、必要な権限がないことを会社が知っていた場合にはその権利行使は無効であるといわれています。
この違いは、共有物管理者の制度は共有者が共有物を円滑に管理可能なように設けられたものであるのに対して、権利行使者の制度は共有株主内部における意思決定の不明確さから会社を保護するように設けられたものだからといえると思います。
そのため、共有株式について共有物管理者が選任された場合であっても、上記の場合には対会社については権利行使者と同様に考えるべきでしょう。