知的財産関係事件の統計について
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◆知的財産高等裁判所において公表されている知的財産権に関する訴訟の統計について

 

1 統計について
日本の特許権侵害訴訟の統計は、裁判所(特に知的財産高等裁判所)から公表されており、勝訴率、和解の状況、無効の抗弁の判断、損害賠償額などに関するデータが公表されています。
現在(令和7年10月14日執筆)の知的財産高等裁判所のHPでは、「詳しく知りたい方へ」→「統計」で確認できます。

2 知的財産権関係事件の平均審理期間
令和6年における知的財産関係民事事件の全国地裁第1審における平均審理期間は、14.5カ月、全国高裁の控訴審は7.1カ月、知財高裁控訴審は7.4カ月とされています。また、審決取消訴訟は8.3カ月とされています。

3 特許権の侵害に関する訴訟における統計(東京地裁・大阪地裁、平成27年~令和6年)
知的財産高等裁判所が公表した、平成27年から令和6年に東京・大阪地方裁判所で終結した特許権侵害訴訟の統計によると、終結した事件759件の状況は以下のとおりです。
(1)判決で終結したのは539件(約70%)、和解で終結したのは220件(約30%)です。
(2)判決の内容別でみると以下のとおりです。
ア 請求認容(一部認容を含む) 159件(29%)
イ 請求棄却          349件(65%)
ウ 債務不存在確認認容      16件(3%)
エ 債務不存在確認棄却       3件(0.6%)
オ 却下             12件(2%)
(3)和解の内容別では次のとおりです。
ア 差止給付条項・金銭給付条項あり   71件(32%)
イ 差止給付条項            17件(8%)
ウ 金銭給付条項のみあり        90件(41%)
エ 差止給付条項・金銭給付条項なし   42件(19%)
(4)判決においてに認容された金額(附帯請求及び訴訟費用に関する金額は含まない)は、次のとおりです。
ア 1円以上100万円未満      19件
イ 100万円以上1000万円未満  22件
ウ 1000万円以上5000万円未満 35件
エ 5000万円以上1億年未満    11件
オ 1億円以上            37件
(5)和解において支払うことが約された金額は、次のとおりです。訴訟費用及び和解費用に関する金額は含まず、支払うことが約された金額が確定金額でない場合は含まない扱いです。
ア 1円以上100万円未満      17件
イ 100万円以上1000万円未満  51件
ウ 1000万円以上5000万円未満 38件
エ 5000万円以上1億年未満    14件
オ 1億円以上            33件
(6)無効の抗弁の有無、無効の抗弁に対する判断の割合は次のとおりです。
ア 無効の抗弁なし         169件(22%)
イ 無効の抗弁あり・判断なし    300件(39%)
ウ 無効の抗弁あり・ 特許有効判断  151件(20%)
エ 無効の抗弁あり・ 特許無効判断  150件(19%)

4 統計的な数字で個別事件の状況を考慮しなければなりませんが、こうした株的な要因も特許訴訟を提起するかどうかの判断材料にはなるのではないでしょうか。判決に至る事件では請求棄却が65%を占めますが、和解では差し止め給付条項を含むものが40%を占めており、請求が認められている事案が相当数あるとも考えられます。金銭的給付条項のみの項目は敗訴的な和解も含まれているものと考えられますが、勝訴的なものも含まれているものと思われますが、その比率はわかりません。
また、特許訴訟を提起するときは、通常の民事訴訟のように自社の請求が認められないというリスクだけではなく、せっかく費用をかけて出願した自社の特許が無効とされるリスクが20%弱あることにも注意が必要です。