派遣労働者の不正行為やミスについて派遣元会社は責任を負うのか
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<ポイント>
◆派遣労働者の不正行為やミスについて派遣元会社は責任を負い得る
◆派遣元会社への責任追及には3つの方法がある
◆派遣元会社が責任を負う場合でも過失相殺がなされるケースが多い

 

派遣労働者が不正行為やミス(以下「不正行為等」といいます。)を行い、派遣先会社(以下「派遣先」といいます)が損害を被った場合、派遣元会社(以下「派遣元」といいます)はその損害を賠償する責任を負うのでしょうか。結論から先に言えば、派遣元は損害の一部を賠償する責任を負うケースが多い、と考えます。上記のケースで、派遣先が派遣元に責任追及するための方法は次の3つが考えられます。
方法1 契約書の条項に基づき請求する方法
方法2 民法415条の債務不履行に基づく損害賠償請求をする方法
方法3 民法715条の使用者責任に基づく損害賠償請求をする方法

方法1は、労働者派遣契約書において、損害賠償請求の条項が定められている場合にのみ可能な方法です。具体的には、実務においては、契約書に「派遣労働者が故意又は過失により派遣先会社に損害を生じさせた場合、派遣元会社はその損害を賠償する。」等といった条項が設けられていることがあります。派遣先は当該条項に基づき、派遣元に損害賠償請求をするわけです。
方法2、方法1のように契約条項がなくとも採用し得る方法です。派遣労働者が不正行為を行ったケースの裁判例によると、労働者派遣契約において、派遣元は業務適性を備えた派遣労働者を派遣する債務を負っているとのことです。業務適性のない労働者を派遣しても、債務を全うしたことにはならない、ということです。したがって、派遣労働者が不正行為等を行った場合、不正行為を行うような派遣労働者は業務適性を備えていなかったと判断され、派遣元は債務不履行責任を負う可能性があります。
方法3も、方法2と同様に契約条項がなくとも採用し得る方法です。民法715条によれば、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任」を負います。これが使用者責任です。派遣元は自社の労働者派遣事業のために派遣労働者を使用する者ですので、本条の使用者に該当します。したがって、派遣元の被用者たる派遣労働者が、第三者たる派遣先に損害を加えた場合には、派遣元が責任を負う可能性があるのです。

3通りの方法をご紹介しましたが、派遣先としてはどれか一つの方法を選択して請求しなければならないわけではありません。裁判例を見ても、全ての方法を併記して、損害賠償請求をしているケースがあります。例えば、ある裁判例では、上記3通りの方法で請求をしたところ、方法3により使用者責任のみが認められています。

さて、上記のように、派遣元は損害賠償責任を負い得るわけですが、その場合でも常に派遣先に生じた全ての損害を賠償する責任を負うかというと、そうではありません。当然のことですが、派遣期間中は派遣労働者は派遣先の指揮監督下にあるため、派遣先は派遣労働者の不正行為等を防止する余地があります。したがって、派遣労働者が不正行為等を行った場合でも、派遣先にも過失があったとして、過失相殺がなされることが多いのです。どの程度の過失相殺がなされるかは事案に応じて千差万別ですが、テンブロス・ベルシステム24事件という裁判例では、上記の理屈で5割の過失相殺をしています。