<ポイント>
◆兼業主婦の基礎収入は実収入と女性労働者の平均賃金のいずれか高い方
◆仕事を休まなかったことは家事への支障の程度を考える一事情となるが、必ずしも家事従事者としての休業損害が否定されるわけではない
前回は、家事従事者のうち専業主婦の休業損害について解説しました。今回は、兼業主婦の休業損害について解説します。
兼業主婦の休業損害を計算するにあたっては、給与所得者としての収入と家事従事者としての収入のいずれか高い方を基礎収入とします。すなわち、①実収入額が女性労働者の平均賃金を上回っているときは実収入額、逆に、②下回っているときには女性労働者の平均賃金が基礎収入となります。
なお、兼業主婦の休業損害について、実収入分とは別に家事労働分を別途加算することはできないという判例がありますので、注意が必要です。
①においては、基本的に基礎収入に具体的な休業日数を乗じて休業損害が計算されます。②において、実通院日数を休業日数と認めて計算する方法のほかにも、個別具体的な事情に即して休業割合を認定して休業損害を計算する方法があることは前回解説したとおりです。
兼業主婦については、現実に収入があり、収入の減少が観念できるため、以下のとおり差異が生じます。
①では、給与所得者としての収入をもとに休業損害を考えますので、仕事を休んでおらず、収入の減少がない場合には、損害が発生しておらず、原則として休業損害が否定されます。ただし、就労状況や家事分担状況を総合考慮して、専業主婦、つまり女性労働者の平均賃金よりも稼働能力が高いものと評価し、実収入の減少がなかったとしても、休業損害を認める余地があります。
一方、②においては、仕事を休んでおらず、収入の減少がない場合にも、家事従事者としての損害が発生しているとして、休業損害が認められる可能性があります。家事従事者の休業損害について、個別具体的な事情に即して家事への支障の程度等を考える必要があることは前回解説したとおりですが、仕事を休まなかったことも考慮事情の1つとなりますので、全く家事労働ができない状態であったとは認定されにくいでしょう。