<ポイント>
◆パワーハラスメント事案の訴えの件数は減らない傾向
◆パワーハラスメントの事実が認められなくとも対応すべきことはある
◆人事として対応することも前向きに検討すべき
企業の内部通報窓口や顧問弁護士をさせていただいている関係で、業務としてハラスメントに関わることが多いです。
なかでも特に件数が多いのはパワーハラスメントです。
セクシャルハラスメントは、そもそも業務に関係がないので、極端に言えば余計なことを言ったりしたりしなければ避けられるのに比べて、パワーハラスメントは業務の一環として行われる指導のあり方が問われることが多いため、上司・部下の意識が高まっても件数はなかなか減りません。
むしろ部下の側のコンプライアンスに対する意識の高まりが高じて、自分の思うようにならないことがあると上司がパワーハラスメントを行っていると主張してくる案件も散見されます。
理由としては、部下側の精神疾患による妄想が疑われるものや、性格的に極端に自己中心的な傾向があったり、あるいは仕事やその他のストレスから精神的に弱ってしまって上司の言動が特に厳しいものでなくとも精神状態によって非常に重く受け止めてしまったりするケースもあります。
企業は、これに対しても、調査を行い、結論を示す必要があります。
そして、結論としてパワーハラスメントの事実が認定されない場合でも、可能な限り抜本的解決に向けて方策を考える必要があります。
例えば、通報者にメンタルの問題がある場合は医療につなぐことや、パワーハラスメントとまでは言えないにせよ、上司が部下に対して厳しい傾向がありそのことで部下がつらい思いをして部署の効率が悪い場合には上司に何らかの働きかけを行うとか(懲罰的な意味ではなく人事的な措置として)上司を異動させるなども考えられます。
パワーハラスメントの事実があるかどうかだけに着目するのではなく、その通報などがあった場合に組織としての問題点を分析し就労環境を改善するのが理想であると言えます。
また、部下に対して厳しい上司をどのように指導教育するかは非常に難しい課題です。
明らかに違法なパワーハラスメントを行う場合には、懲戒処分や人事上の降格などによって対応し、それでも繰り返す場合には、最終的には職場を去ってもらわないとならないこともあります。
とはいえ、パワーハラスメント的な行為を繰り返す上司は、一般的には仕事ができることが多く、そのため他人に対して批判的であったり厳しい言動を取ったりすることも多いと言えます。「名選手、名監督にあらず」というのが当てはまるように思います。
そしてパワハラ気質を持つ優秀な上司は、優秀であるがゆえに、外形的にパワーハラスメントに該当するような言動を取らない傾向にあります。
例えば部下に、バカ、給料泥棒などと言うようなことはしません。業務に関連して、しかも必要性があるかのような外形のもとで部下を追い詰め、ダメージを与えるような指導を繰り返すことがあります。
このような場合にどう対応するのかは難しい問題です。
指導の時間が長すぎないか等の視点からチェックすることが有効な場合もありますが、なかなか決定打がない場合も少なくありません。
そのような場合は、ハラスメントによる懲戒処分を行うかどうかに拘ることなく、体調を崩す部下の多寡や、離職率、働きやすさに関するアンケート結果などにより人事面での対応をせざるを得ないと考えています。
外形的にパワーハラスメントに該当しないからと言って、部下が次々にやめていったり、体調を崩したりするような上司は管理職としては不適格と言わざるを得ません。
もちろん部下の病気や離職がたまたま続く可能性もあるのでヒアリングやアンケートによる実態把握は必要ですが、実態を把握したうえで、普通の人あるいは自分の子供や身近な人がその人の部下になることはとてもではないが受け入れらないと思うようなケースでは組織として何らかの対応が必要だと思います。
