コメント配信システム事件(知財高裁令和5年5月26日判決(大合議事件判決、令和4年(ネ)第1004号、原審:東京地裁令和4年3月24日判決)
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<ポイント>
◆サーバとネットワークを介して接続された複数の端末装置を備えるシステムの発明について、日本国外に存在するサーバと日本国内に存在するユーザ端末からなるシステムを新たに作り出す行為が、上記発明の実施行為として、特許法2条3項1号所定の「生産」に該当するとされた事例

 

1.事案の概要と訴訟の経緯
(1)本件は、株式会社ドワンゴ(控訴人・原告)が、米国法人であるFC2, INC.および日本法人の株式会社ホームページシステム(HPS)(被控訴人・被告)に対して提起した特許権侵害差止等および損害賠償請求事件です。
ドワンゴは、自らが保有する特許第6526304号「コメント配信システム」(本件特許)に関し、FC2が運営する「FC2動画」「FC2 SayMove!」「FC2 ひまわり動画」(被告各サービス)が本件特許を侵害していると主張しました。
具体的には、FC2が米国に設置したサーバから日本国内のユーザ端末へファイルを配信してシステムを完成させる行為が、日本の特許法2条3項1号に規定される「生産」に該当するとして、ファイル配信の差止め、サーバ等の除却、および損害賠償を求めました。
(2)第一審(東京地裁)は、「属地主義の原則」を厳格に適用し、サーバが米国内にあるため日本国内での「生産」には該当しないとして請求を全て棄却しました。
ドワンゴはこれを不服として知財高裁に控訴し、主位的に10億円へ損害賠償請求を拡張しました。
(3)本件特許の概要と訂正審判の内容
ア 発明の構成と効果など
本件発明(請求項1)は、サーバと複数の端末装置がネットワークを介して接続されたコメント配信システムです。 サーバは、動画を視聴中のユーザから付与された第1・第2コメントを受信し、動画ファイルとともに、それぞれのコメントが付与された時点の動画再生時間を示す「コメント付与時間」を含むコメント情報を端末装置に送信します。
端末装置は、受信した動画とコメント情報に基づき、コメント付与時間に対応するタイミングで、動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する第1および第2コメントを表示させます。
その際、第2コメントの表示位置が第1コメントと重なるか否かを判定する「判定部」と、重なると判定された場合に両者が重ならない位置に表示されるよう調整する「表示位置制御部」を備えていることが最大の特徴です。
これにより、コメント同士が重なって見えなくなるのを防ぎ、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性を向上させる効果があるとされています。
イ 訂正審判
知財高裁に係属中の令和4年8月、ドワンゴは本件特許について特許庁へ訂正審判を請求しました。この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的として請求項5を削除し、それに伴う請求項12および13の引用関係の記載を正すものでした。この訂正は適法と認められ、令和4年10月に訂正を認める審決が確定しました。知財高裁ではこの訂正後の特許請求の範囲を前提に審理されました。

2.国外サーバを用いたネットワーク型システムの「生産」と属地主義
(1)原審(東京地裁)の判断
原審は、特許権の効力が当該国の領域内でのみ認められるという属地主義の原則から、「生産」に当たるためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物が日本国内において新たに作り出されることが必要であると解釈しました。被告システムは構成要素である「サーバ」が米国内に存在しており、日本国内の端末のみでは全ての構成要件を充足しないため、日本国内で「生産」されたものとは認められないと判断しました。
(2)控訴審(知財高裁大合議)の判断
控訴審は原審の判断を覆しました。ネットワーク型システムの「生産」とは、単独では構成要件を充足しない複数要素がネットワークを介して接続され、全体として機能を有するシステムを新たに作り出す行為であると定義しました。 現代においてサーバが国外に設置されることは一般的であり、サーバが国外にあることのみを理由に一律に「実施」に該当しないと解すれば、サーバを国外に置くだけで容易に特許を回避でき不当であると指摘しました。他方、端末が国内にあるだけで一律に「実施」とすることも過剰保護になるとしました。 そこで控訴審は、サーバが国外にあっても、以下の4つの要素を総合考慮し、当該行為が「我が国の領域内で行われたものとみることができるとき」は、特許法上の「生産」に該当すると判示しました。
ア 行為の具体的態様:米国サーバから国内端末へのファイル送受信は一体として行われ、国内端末での受信によりシステムが完成するため、送受信は国内で行われたと観念できる。
イ 国内要素の機能・役割:国内端末が、本件発明の主要機能である「コメントの重なりを回避する判定部および表示位置制御部」の機能を果たしている。
ウ 効果が得られる場所:コメントを利用したコミュニケーションによる娯楽性向上という効果は、国内で発現している。
エ 経済的利益への影響:国内での利用は、ドワンゴが国内で得る経済的利益に直接影響を及ぼし得る。
結論として、FC2の行為は日本国内での「生産」に該当し、特許権侵害が成立すると判断されました。

3.まとめ
本判決は、クラウド技術の発展に伴う越境的なネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外にある場合でも、国内に存在する端末が主要な機能を果たし、国内で効果や経済的影響が生じる場合には、日本の特許法上の「生産」に該当し得るとする新たな基準を示しました。厳格な属地主義を柔軟に解釈し直した点で、極めて重要なリーディングケースと考えます。最終的に知財高裁は原判決を一部変更し、FC2に対する一部の差止めと損害賠償を命じました。