2024年6月株主総会の留意事項2―アフタコロナの株主総会―
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<ポイント>
◆コロナ前の出席数を念頭に合理的な出席株主数を予測すべき
◆質疑は一定時間をさいた上で、コロナ禍の経験を活かして効率的な議事運営を図るべき

上場会社の多数派である3月決算の会社が株主総会の準備に入る時期となり、前回は事業報告を中心に述べましたが、今回は2023年5月8日に新型コロナウイルスが二類相当から五類に変更されたことを受けて、3月決算の会社にとっては本格的なアフタコロナでの株主総会となりますので、その留意事項として特に人数制限と質疑について検討したいと思います。

2023年6月総会より来場者は増加傾向にあると思いますが、2024年6月総会は一層の来場者の増加が見込まれるものと考えられます。
コロナ禍の下では、来場の自粛を呼びかけ、入場者数を制限する対応をとった会社も少なからずあったと思います。商事法務による調査では、東証プライムに上場する会社で出席株主用の座席数を100席以下とした会社が、2022年で約62%(回答者中の%。以下同じ)、2023年で約44%ありました。自粛の要請は、2022年には約75%、2023年には約10%ありました。
このような会社の対応は、当時としては合理的なものといえると思いますが、同様の対応では問題が生じる可能性があります。
来場者数を制限するとの方針で株主総会に臨む場合、たとえば会場に入りきれない事態となることが考えられます。
昭和58年の最高裁判例に、昭和46年の定時株主総会において一部の株主が議場に入りきれず、議場では混乱の中で株主による修正動議を無視したことは重大な瑕疵に該当すると判断し、決議を取り消したものがあります。
ただ、これについては、会場に入場できない株主がいれば決議取消事由があるとした判例であるとの評価はされていません。むしろ、会社が合理的に予想した以上の数の株主が来場したことにより一部の株主の議決権行使の機会が奪われたからといって、当然に決議を取り消すことにはならないというのが一般的な理解といえます。
令和4年の静岡県沼津支部の裁判例では、同年6月のスルガ銀行の定時株主総会において、出席希望の株主は事前登録をして、登録希望者が会場となるコンベンションホールの座席数(コロナによる座席の間引きをして200名強)を超える場合には抽選とするとしたことが違法であるとして争われました。
裁判所は、会場の規模等により出席者数を無制限とすることはできず、希望すれば必ず株主総会に出席できる権利が株主にあるとは認められないとしました(なお、ここまで言い切ることには批判があります)。また、新型コロナの感染拡大の防止という公益目的のために出席株主数を限定し、事前登録・抽選とすることは合理性を欠くものではないとしました。
以上からすれば、会場に入りきれない株主がいたとしても、会社が合理的な来場者数の予測をして会場を用意していれば決議取消しの対象とはならないといえると思います。
ただし、合理的な来場者数の予測については、コロナ禍前の来場者数を検討材料の一つとする等、コロナ禍における経験はいったんリセットすべきと思われます。
また、出席型のバーチャル総会とすることで、会場に入りきれない株主に参加機会の提供をすることも検討すべきと思われます。

コロナ禍の下では、感染拡大を防止するため、質問の回数や数、質疑全体の時間を制限することが許容されていました。たとえば、質問はひとり1問で全体時間を30分以内とするなどです。
しかし、アフタコロナにおいては、このような制限は許容されるとはいいがたいと思います。
実際、2023年6月総会から質疑時間は増えてきているようです。上記商事法務の調査でも、東証プライムに上場する会社で、質問なしが2022年27.2%から19.5%に減り、質問者11人以上が2022年3.8%から8.2%に増加しています。
コロナ禍の下で効率的な質疑応答を心がけたと思われますが、このノウハウを活かして一定程度の時間(たとえば1時間)における充実した質疑を行うよう準備すべきと思われます。
なお、コロナ禍前に慣例的に行われてきた出席株主数の報告等や監査報告などについては、アフタコロナにおいても簡略化を続けて、その分を充実した質疑に充てることも検討すべきと思われます。