進化するD&O保険(会社役員賠償責任保険)

 池田 佳史

2015年06月01日

<ポイント>
◆社外取締役の選任、増員に際してD&O保険の見直しの検討を
◆会社訴訟や役員からの提訴にも対応できる特約の検討を
◆争訟費用だけか、損害賠償金の補填もされるのかの確認を

改正会社法により社外取締役の事実上の選任義務が生じたことから、社外取締役を選任していなかった上場会社の多くは、今年6月の株主総会で、監査役会設置会社のまま、または監査等委員会設置会社に移行して、社外取締役の選任をすることにしていると思います。
また、今年6月1日から東京証券取引所及びその他の証券取引所で施行される「改正有価証券上場規程」により「コーポレートガバナンスコード」の実施、または実施しない場合には理由説明が義務づけられますが、同コードでは独立社外取締役を2名以上選任することとされています。
このような制度変更による社外取締役の増加に伴い、会社としては人材確保のために善管注意義務違反等があった場合の損害賠償義務の軽減策が検討課題となってきます。
損害賠償義務の軽減策としては責任限定契約があり、多くの企業で導入されています。
それに加えてD&O保険への加入の検討が必要になってきます(D&O保険の基本的な仕組みについては、拙稿「会社役員賠償責任保険(D&O保険)について」または「D&O保険の概要と企業実務上の留意点」会社法務A2Z 2011年6月号 参照)。
5月3日の日経新聞でも紹介されているとおり、D&O保険は近時の情勢変化にしたがって進化しており、本稿ではその概略を説明します。

D&O保険は「会社役員賠償責任保険普通保険約款」(「普通保険約款」)と特約部分からなっており、普通契約約款で付保(保険でカバー)されるのは役員をしている会社以外の第三者に悪意・重過失による任務懈怠または計算書類等の虚偽記載等により損害を与えた場合(会社法429条)です。
そのため、役員が株主から株主代表訴訟により損害賠償請求された場合に備えて株主代表訴訟特約をつけることが一般的です。
しかし、株主代表訴訟特約では、株主代表訴訟によらないで会社が役員に対して損害賠償請求をした場合には付保されません。
これまでは株主代表訴訟特約のみで対応できていたとしても、今後はオリンパス事件のように会社が役員に対して損害賠償請求することが増加する可能性は高いと思われます。
なぜならば、不祥事が起こった際には第三者委員会が設置されて事案の究明がはかられることが一般化してきており、第三者委員会が役員の責任を認めた場合には、現経営陣としては責任追及せざるを得ないことが多いと思われるからです。
そのため、従来のD&O保険にはなかった会社からの損害賠償請求も保険の対象とする保険商品が出てきています。
そのような保険商品にも以下のようなバリエーションがあります。
(1)争訟費用だけを補償するのか、損害賠償金も補償するのか
(2)補償する場合でも全部なのか一部にとどまるのか
(3)株主からの提訴請求があった場合のみ保険が適用されるのか、提訴請求がなくとも保険が適用されるのか

また、D&O保険は会社と役員が一括して保険契約を結びますが、役員が株主として株主代表訴訟をしたような場合には株主代表訴訟特約は適用されません。
保険会社によっては、この場合にも保険の対象となる特約を販売しているところもあります。その場合でも、争訟費用だけを補償するのか、損害賠償金も補償するのかの違いがあるようです。

D&O保険は、毎年更新する形態の保険契約ですが、契約後に相当期間が経過することにより保険内容がわからなくなっている役員も多いと思います。
社外取締役選任に際して、加入しているD&O保険の内容を再確認することは重要ですし、いい機会だろうと思います。