内部通報制度の通報者の範囲

 木ノ島 雄介

2013年06月01日

<ポイント>
◆会社(関連会社を含む)の業務に従事する(従事した)すべての者を含めるべき
◆取締役や監査役は内部通報の受領者であり通報者ではない
◆制度を周知させられる範囲、なりすましや虚偽の通報の防止策の考慮が必要

内部通報制度を構築するにあたって検討すべき事項の1つとして、通報者をどの範囲までにするかという問題があります。
内部通報制度の目的には、組織内に違法行為・不正行為、あるいはその兆しなどがあった場合、組織として可及的速やかにその事実を把握するところにあります。従って、それに関する情報源は多い方がその目的に適います。その点からは、通報者の範囲はできるだけ広くする方がベターということになります。
ここでは一般的な会社の場合について解説します。

まず、その会社の業務に従事するすべての者、すなわち、正社員、契約社員、パート、アルバイト、派遣社員にまで広げるべきです。制度について周知するという要請もこの範囲においては問題ありません。

関連会社・子会社の業務に従事する者についても同様に扱うべきです。

退職者も、退職前にその会社の業務に従事し、社内の違法行為・不正行為を現認したことがありうるので、通報者の範囲に含めるべきと考えられます。

では、取引先企業(下請会社を含む)の経営者や従業員、社員は、通報者の範囲に含めるべきでしょうか。
従業員の家族・親族・知人の場合はどうでしょうか。
株主はどうでしょうか。
このあたりになるとケースバイケースに判断せざるを得ません。そして、そのときの判断基準は、この制度の内容をそれらの対象者にまで周知徹底させることができるか(費用対効果の点も含めて)、また、(後述の匿名性と関係しますが)会社と無関係な者が「なりすまし」によって、故意に虚偽事実を通報する危険性がどの程度あるかなど、にあります。
但し、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどの場合は例外的な配慮が必要かもしれません。本人が精神的にダメージを受けており、冷静に事実関係を話すことができないなどの事情下にあり、また被害が切実な場合もあるからです。

会社の取締役や監査役は内部通報の通報者ではありません。取締役等は通報の最終的受取人であり、通報の内容を認識し、調査を経て是正措置や関係者の処分、対外的公表等を判断する主体です。
監査役もその取締役の業務執行を直接監査する立場であって、内部通報の通報者ではありません。
取締役等は通報者に含まれないものの、オリンパスのように取締役や監査役も違法・不正行為の行為者となることはあり得ます。従って、内部通報の対象者(被通報者)となることはあります。
ちなみに、取締役や監査役で、内部通報の受領者でありながら、その情報を握りつぶしたり、隠蔽したりする場合もあり得ます。
いずれにしても、企業や組織がそのような「経営者の違法行為」に対してどう対処すべきかは大きな問題ですが、それは内部通報制度のテーマを越えた問題で、本講座の対象ではありません。

ところで、企業がルール上通報者の範囲に含めていない者から内部通報があった場合はどう扱うべきでしょうか。
通報者の範囲に含まれていないという理由だけで門前払いすることは必ずしも適当とは思えません。
それ自体は、明らかに無視しうるものを除いて、とりあえず受領し、記録にも留めるべきでしょう。以後の手順についても一応の対応はすべきだと思われます。

通報者についての余談ですが、違法・不正行為を行った社員本人が内部通報の動機を持つことがあります。自分が犯した、あるいは犯しつつある違法・不正行為についてみずから内部通報を行うのです。単独で犯した場合だけではなく、自分が所属するグループぐるみで不正行為を行っている場合もあります。
独禁法には、「リニエンシー」という制度、つまり、談合など違法行為を行った企業がその事実を自ら公取委に通報した場合は、事後の責任を減免されるという制度があります。また、刑法には自首は刑を減軽すると規定されています。
これらにならって、みずから違法・不正行為について内部通報を行った場合は、事後の懲戒処分等において一定の減免を行う旨ルール上約束するという仕組みにするのです。現にこのようなルールを実施している企業もあります。
これによって、会社は迅速かつ正確に違法・不正行為の内容を把握することができ、企業のダメージや対外的な信用を早期に食い止めることができます。そして通報した社員にはその功労を認めて一定の宥恕を与えるのは好ましいことであると思われます。