無関心ではいられない内部通報制度(第7回)~公益通報者保護法改正その他の動向と実務上の影響

 池野 由香里

2021年04月15日

<ポイント>
◆公益通報の通報者の損害賠償責任が制限
◆行政機関に公益通報に対応する体制の整備義務
◆違反に対しては企業名の公表や罰則も

今回は、これまで解説してきた改正点以外のものについてまとめて解説します。なお、公益通報対応業務従事者の守秘義務の詳細については次の回に解説します。

損害賠償請求の制限
改正前の公益通報者保護法でも、「不利益な取扱い」の内容に損害賠償請求が含まれると解されており、通報者に対し公益通報を理由として損害賠償請求をすることは違法となり得ましたが、一般論として訴えの提起が違法となるのは裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られていました。
そこで、通報者がより安心して通報することができるよう、不利益取り扱いから保護される要件を満たしている場合、事業者は公益通報によって損害を受けたことを理由として損害賠償責任を負わないとする規定が設けられました。
なお、このような規程によっても、事業者の営業機密を漏らしたり、関係者の名誉を毀損したりするなど、公益通報とは無関係に他人の正当な利益を害した場合の損害について一律に免責することを定めるものではないと解されています。

行政通報の体制の整備義務等
改正法では、地方公共団体を含む行政機関に対し、新たに外部の労働者等からの公益通報に適切に対応する体制の整備その他の必要な措置をとる義務を課しました。
内部公益通報体制整備義務に対応したものといえますが、規模による相違はなく、監督行政機関はすべてこの義務を負います。
内部公益通報体制整備義務と同様に、具体的には今後の指針等によりますが、小規模な自治体等では対応が難しいことを考慮して、地方自治法の広域連合の仕組みである「協議会の設置」等が活用すること、権限を有する行政機関の通報窓口を補完するものとして一元的相談窓口を設置することも考えられています。
このように行政通報の窓口の整備がなされ利用しやすくなることによって、事業者内の問題を自浄作用により解決するためには内部通報制度もより利用しやすいものにしておくことが必要となると考えられます。

企業名の公表や罰則等
消費者庁長官(内閣総理大臣の授権による)は、公益通報対応業務従事者の設置及び内部公益通報体制等の整備等の施行に関し、事業者に報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができ、当該事業者が報告しなかったり、虚偽報告をしたりした場合には20万円以下の過料に処せられることになりました。
さらに、内部公益通報体制等の整備等の義務に違反している事業者に勧告した場合、これに従わないとき、消費者庁はその旨を公表できることになりました。企業にとってはこのようなコンプライアンスに関する行政勧告に応じなかったことを公表されることは企業イメージの悪化に直結するものであり、このような権限の効果は大きいと思われます。
なお、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については、公益内部通報体制等の整備義務は努力義務とされていることから、上記の勧告・公表措置の対象外となります。「常時使用する労働者」とは、常態として使用する労働者を指すことから、パートタイマーであっても、繁忙期のみ一時的に雇い入れるような場合を除いて含まれます。役員は含まれません。 
公益通報を理由とした不利益な取り扱いがあった場合、当該事業者に対しては助言、指導により任意の是正を促し、さらには勧告、公表にすすむことになります。ただ、これに関する刑事罰は課せられず、その導入については今後の検討課題となっています。
刑事罰として規定されたのは、公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者の守秘義務違反です。違反者に対しては30万円以下の罰金という刑事罰が科されることになりました。