無関心ではいられない内部通報制度(第13回)~公益通報者保護法改正その他の動向と実務上の影響

 木ノ島 雄介

2021年06月01日

<ポイント>
◆事例から学ぶべき内部通報制度に対する経営トップの取組みの重要性
◆外部窓口の設置、調査手順書の整備、第三者による検証も重要

連載の終わりに、今年公表された報告書による具体的事例を挙げることにします。
H株式会社及びその子会社が製造していた一部製品について、長期にわたり検査成績書に不適切な数値を記載していた等により、取引先との間で取り決めた仕様を満たさない製品等を納入していた事実が、2020年から2021年にかけて明らかにされました。
同社には従前から内部通報制度があったようですが、上述した不祥事が長期にわたって続いていたとのことですので、内部通報制度が十分に機能していなかったことがうかがえます。

報告書によると、同社の内部通報制度の存在・利用方法について、イントラネット上の掲示等やコンプライアンス研修により周知を図っていたようです。
もっとも、消費者庁が公表している民間事業者向けガイドラインでは、経営トップの責務として、内部通報制度の意義や重要性について、明確なメッセージを継続的に発信することが必要とされているところ、報告書によると同社では、経営幹部が定期的なトップメッセージを発信していなかった、とあります。
まず経営トップは、真摯に説得力を持って社員に内部通報制度の意義・重要性を定期的に繰り返し説明しなければなりません。

また、通報者は通報に際し、封書または電子メールで、専用の通報窓口であるCSR推進室に送付することとされており、原則として通報者の氏名等を記載することとされていたが、匿名による通報もできるとされていたようです。 そして通報窓口であるCSR推進室は、通報者の同意がない限り通報者の特定が可能な情報を第三者に開示してはならないとされており、また、通報したことを理由として同社が通報者に一切の不利益な取扱いをしないことも規定されていたようです。
もっとも報告書によると、民間事業者向けガイドラインでは、可能な限り会社外部に通報窓口を整備することが適当であるとされているところ、同社には社外窓口がなかった、とあります。
やはり、隠蔽や通報者に対する不利益的な取扱いがなされるのではないかとの通報者の不安を払拭する見地からは、社内窓口だけでなく社外窓口も設置すべきといえます。
H社では、2020年10月1日以降、Hグループ共通の内部通報制度が新たに導入され、社外窓口に通報するよう制度が変更されたようです。

調査方法等について社内規程等を整備することにより、内部通報への対応が客観的な基準に従った統一的なものとなり、通報対応の透明性が確保されます。そして当該規程に従った運用がなされることにより、内部通報の信頼性・実効性が担保されると考えられます。ところが同社では事実関係等の調査に関する手順書はあったものの、 同手順書に準拠した運用が行われなくなり、CSR推進室長等が、その都度対応方針を決定していた、とあります。
通報対応の透明性、内部通報の信頼性・実効性の担保のため、手順書を定め、その手順書に準拠した運用がなされるべきです。

民間事業者向けガイドラインでは、内部通報制度の実効性担保を目的として、通報対応の状況について、中立・公平な第三者等による検証・点検等を行い、調査・ 是正措置の実効性を確保することが望ましいとされています。ところが報告書によると同社では、第三者等による検証を行っていなかった、とあります。
特に通報窓口が社内窓口のみの場合、通報への対応について第三者による検証は重要です。

H社の報告書の指摘について、思い当たる事項のある企業は内部通報制度改善の参考とすべきでしょう。