東京・国立のマンション訴訟-高層部分に撤去命令

 嶋津 裕介

2003年01月06日

【衝撃的な判決】
東京都国立市の「大学通り」に建設された高層マンション(14階建て、44m)が市条例の高さ制限(20m)に違反するとして、周辺住民ら(50人)が建築主を相手取ってマンションの一部撤去などを求めた訴訟の判決が12月18日、東京地裁でありました。
判決は、原告3人に対する景観利益の侵害を認め、大学通りに面した1棟の20mを超える部分(7階以上)の撤去を命じました。
また原告3人については撤去されるまで月計3万円の慰謝料と弁護士費用900万円を支払うよう建築主に命じました。
周辺住民の景観利益が侵害されたという理由でマンションの一部撤去を命じる判決は初めてであり、この画期的で、衝撃的な判決は各新聞報道でも大きく取り扱われ、週刊誌やテレビ番組でも話題になっています。
そこで、判決がこのような結論に至った理由、判決が与える影響について解説します。

【建物に対する規制】
マンションの建築主は「財産権の行使」として、どのような形態のマンションを建てるか自由に決定できることが一方で保障されています。
しかし、建物の安全性を確保し、また近隣の建築環境を整備する必要から、建物の敷地、構造、設備、用途などについて最低限度の規制があります。これが建築基準法です。また地方公共団体が独自の基準として条例を制定する場合もあります。
国立のマンションの場合も市条例の高さ制限(20m)に違反することが訴えの根拠とされていました。
ところが、判決はマンション建築が「条例には」違反しないと結論付けました。条例が施行された時には既にマンションの建設工事が着工されていたというのがその理由です。建築基準法は条例施行時に既に建築工事中の建物には条例は適用されないと定めています。

【景観利益の侵害】
判決が原告の請求を認めたのは、マンションが住民らの「景観利益」を侵害したという点にあります。
判決は、景観利益は直ちに法律上の権利とは認められないものの、地権者らの良好な景観維持などにより付加価値を生み出した場合は、その利益は法的保護に値すると判断。並木道に面した1棟について並木の高さ(20メートル)以上の部分が、この景観利益を侵害し、周辺住民の受忍限度を超えている、と結論付けました。
景観は元々は誰のものでもありませんから、単にマンションの建設によって見晴らしが害されたというだけでは損害賠償や工事の差し止め、あるいはマンションの撤去が認められることはありません。
これまでの裁判例の中でも眺望・景観を保護したものがありますが、きわめて厳しい条件を要求しています。例えば、一般通念上眺望の価値ある景観が存在すること、周辺住民の住居が眺望の良さゆえに価値が上がっていること、眺望を確保することが周辺の利用状況と調和していることなどの条件のもとに住民側から建築主への損害賠償を認めています。
今回の判決もこのような裁判例と同じ考え方に立つものと考えられます。すなわち景観利益は直ちに法律上の権利ではないとした上で、「大学通り」の周辺住民が高層建築物を作らずに景観を維持してきた点について「土地利用上の犠牲を払いながら70年以上にわたって保持してきた付加価値」と評価しています。その景観が長年にわたる周辺住民の努力によって形成されてきたことを重要視しているのです。
他方で判決は、建築主が受忍限度の範囲内でマンションを建築することも可能であったにも関わらず、建設を強行したことを、「社会的使命を忘れ自己の利益追求に走った」と評価しています。景観利益が侵害されたか否かの判断にあたっては、建築主側に悪意がなかったか、侵害を回避する努力をしたかなどの事情も考慮されています。

【今後の影響】
判決は、周辺住民が有する都市景観の利益を保護したこと、既に完成し、居住が開始したマンションの一部撤去を命ずる点で画期的なものです。
建築主側としても周辺の景観との調和を無視してマンションを建築することが困難となるのは間違いないでしょう。
但し、この国立のマンションを巡っては、市の条例が無効であるとして建築主側から別の訴訟を提起されており、これについて東京地裁は市の条例制定は違法であるとして、建築主側勝訴の判断をしています。このように司法判断にも揺れがあります。
また今回の判決については建築主側が直ちに控訴しており、東京高裁の判断に注目が集まるところです。