改正民事執行法の概要-債務者の財産開示手続の強化

 井上 彰

2020年01月15日

<ポイント>
◆債務者からの財産開示手続の見直し
◆第三者からの情報取得手続の創設
 ・預貯金債権等に関する情報の取得
 ・給与債権に関する情報の取得
 ・不動産に関する情報の取得

1 改正の経緯
裁判手続で勝訴判決を得て確定しても、相手方が支払うとは限りません。相手方が支払わないときは、さらに強制執行を申し立てる必要があります。この強制執行の申し立てには、債務者の財産を特定することが必要です。
例えば、債務者の銀行預金債権であれば、銀行名だけでなく、支店名まで特定しなければならない等です。しかし、こうした特定が困難であるために、せっかく費用と時間をかけて判決をもらっても回収できないという問題がありました。
平成15年改正で債権者の申し立てにより裁判所が債務者に財産開示を命じる「財産開示手続」を創設しました。しかし、この手続は、債務者が開示に応じなくても、さして不利益がないことから実効性に乏しいと考えられ、平成30年での利用件数は578件にまで減少していました。
そこで、今回の令和元年改正法では、a)現行の債務者による財産開示手続を強化するとともに、b)第三者からの情報取得手続を創設し、強制執行手続の実効性を高める改正をしました。債権回収実務に与える影響が大きいと考え、今回ご紹介いたします。なお、このほかにも債権執行事件の終了に関する規律の見直しなどもありますが債権回収に影響のある改正に絞って解説します。

2 債務者による財産開示手続の強化
(1)申立債権者の範囲の拡大
従前の財産開示手続は、プライバシー等への配慮から、手続を申し立てることのできる債務名義の種類を確定判決等に限定していました。かかる限定が財産開示手続の利用件数が低迷した原因であるとの批判を受け、改正法は、仮執行宣言付判決、仮執行宣言付判決等、すべての債務名義を有する債権者に申し立てを認めることにしています。
(2)不出頭等に対する罰則の強化
改正前は、債務者が財産開示期日に出頭せず、期日で陳述拒絶や虚偽陳述などをしても30万円以下の過料が課されるだけでした。
今回の改正法では、不出頭等に対する罰則について、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が科されることになりました。

3 第三者からの情報取得制度の創設
(1)不動産に関する情報の取得(新民執法205条)
債務者が所有者の名義人となっている不動産に関する情報を取得するため、登記所に対して情報の開示を求めることができるようになります。本手続の申し立ては、財産開示手続が実施された期日から3年以内に限り行うことができるとされています。つまり、先行して債務者に対する財産開示手続を行わなければならないという制限があります(新民執法205条2項)。
(2)給与債権に関する情報の取得(新民執法206条)
債務者の給与債権に関する情報を取得するため、市町村または日本年金機構や共済組合等に対して、債務者の給与債権等に対する強制執行を行うために必要な情報の開示を求めることができるようになります。
申立てができる債権者は、養育費に係る請求権と人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権を有する債権者に限られます。また、上記(1)と同じく、財産開示手続の前置が必要です。
(3)預金債権等に係る情報の取得(新民執法207条)
債務者が有する預貯金の口座や株式等に関する情報を取得するため、銀行や証券保管振替機関等が有する情報の開示を求めることができるようになります。
この手続では、前記不動産や給与債権と異なり、財産開示手続の前置は必要とされていません。預貯金等債権は流動性が高く、債務者による隠匿がなされやすいことから、より迅速性・密行性が必要になることが考慮されました。

4 施行日
令和2年4月1日から施行されます。ただし、登記所から不動産に関する情報を取得する手続は、公布された令和元年5月17日から2年を超えない範囲内で政令で定める日から運用を開始するとされています。