<ポイント>
◆家事従事者(専業主婦)について、現実に収入がなくても休業損害が認められる
◆家族のために家事を行っている者であれば、家事従事者の性別や属性は問わない
◆家事従事者の休業損害の計算方法は様々だが、実態に即して計算する必要がある
交通事故による怪我で仕事を休まざるをえなくなった場合、本来得ることができたはずの収入は、休業損害として事故の相手方に請求できます。給与所得者であれば、休業損害は、通常、事故前の収入を基にした基礎収入と休業日数を乗じて計算されることになります。
また、現実には収入のない家事従事者(専業主婦)についても、事故によって家事を行うことができなくなった場合には、判例上、休業損害が認められています。
判例は、その理由として、①家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げていること、②一般に、妻がその家事労働につき現実に対価の支払を受けないのは、妻の家事労働が夫婦の相互扶助義務の履行の一環としてなされ、また、家庭内においては家族の労働に対して対価の授受が行われないという特殊な事情によること、③法律上も、妻の家計支出の節減等によって蓄積された財産は、離婚の際の財産分与又は夫の死亡の際の相続によって、妻に還元されること、を挙げています。
上記理由から考えると、一人暮らしで自分のために家事を行っている場合は、休業損害が認められません。一方で、妻に限らず、夫やシングルマザーであっても、家族のために家事をしている場合には、休業損害が認められることになります。
家事従事者の休業損害を計算するにあたっては、女性労働者の平均賃金を基礎収入とすることが一般的とされています。
上述したとおり、休業損害は、通常、基礎収入と休業日数を乗じて計算されますが、家事従事者の休業損害については、怪我の内容・程度、治療・回復の経過、担当する家事の内容、家事への支障の程度等、個別具体的な事情に即して考える必要があります。
そこで、裁判例上は、実通院日数を休業日数と認めて計算する方法のほかにも、全く家事労働ができない状態の休業割合を100%として、休業期間全体について一定割合の休業割合を認定する方法や、休業期間のうち期間ごとに休業割合を認定する方法(事故から1か月は100%、2~3か月は50%とするなど)も採用されており、いずれにせよ具体的な事情から休業の必要性や相当性を説明した上で、実態に即して計算する必要があります。