大買収時代

 梅本 弘

2006年01月15日

日本国内だけではなく、世界的なカネ余りを背景に、海外においても広範囲なM&Aが展開されました。
日本国内でのM&Aの件数は前年比19%増の3734件と過去最高となり、TOB(株式公開買い付け)も前年比36%増の53件ありました。
もっともこの中には、グループ内のM&Aも1009件(前年比10%増)含まれています。グループ内の重複事業の見直しなどグループとしての競争力を強化するための再編が行われた結果です。
大型案件としては、三共と第一製薬の経営統合(8000億円)、国際石油開発と帝国石油の合併(3600億円)などがあります。いずれも国際的な競争での生き残りに向けた戦略として位置づけられています。
投資会社によるM&Aも前年比21%増の358件ありました。このなかには、アドバンテッジパートナーズが花王などと共同でカネボウを買収したように、事業会社と共同で手掛ける例も増えています。

企業買収のなかでもとくに注目をあびたのが、日本で過去にあまり例がなかった「敵対的買収」でした。
2005年2月、ライブドアがニッポン放送の株式を大量に取得し、グループ盟主のフジテレビまで飲み込もうとしました。ニッポン放送、フジテレビの抵抗などの結果、結局資本・業務提携で和解しました。
9月、村上ファンドが阪神電鉄株を大量に取得しました。主力株主として現在も経営者に種々注文をつけていますが、今後の成り行きは不透明です。
10月には楽天がTBSの株式を買い集め、同社に経営統合を迫りました。しかし、これもTBS側が抵抗し、楽天の思惑がそれほど簡単には運ばない状況になっています。

このような敵対的買収の動きに対する買収防衛策についてもいろいろ議論がなされました。
ライブドアの敵対的買収に対してニッポン放送はフジテレビに新株予約権を発行しようとしましたが、東京地裁、東京高裁はそれを違法として差し止めました。
これを契機にM&Aに関する制度の欠陥もいくつか指摘されました。その一部はすでに是正されましたが、企業買収とその防衛に関しては、いろいろな視点や基本的な考え方の相違があり、それらの議論は容易に収束しそうにありません。
そもそも買収が正義なのか、その防衛が正義なのか、どういう場合に、どういう方法による防衛策が正当なのか、その場合、経営者の保身を排除し、株主の利益や意向、株主平等の原則等をどう尊重するのか、日本経済全般への影響はどうか、などといった問題があります。
新会社法や証券取引法、また証券取引所のルール、海外投資家の動向、外国の諸制度などとの整合性も視野に入れなければなりません。
最近の「黄金株」の議論もその一つ、ある意味で象徴的な問題です。黄金株とは、特定の株主に対して合併など総会決議案を拒否できる特殊株式として発行するものですが、買収阻止に対する効果が強力過ぎるため、東京証券取引所などは市場の円滑な動きの障害になるとして反対しました。しかし経産省・経済界などと意見が対立し、結局条件付きで認める方向で調整がはかられています。
買収防衛策の代表は新株予約権を発行する方法、いわゆるポイズン・ピル(毒薬条項)ですが、2006年5月施行の新会社法では、敵対的買収者だけが行使できない差別的条件のついた新株予約権を株主に無償で割り当てることを取締役会で事前に決議しておく、いわゆる「条件決議型ワクチンプラン」が認められます。

買収のターゲットにされた後の防衛策よりも、そもそも買収者のターゲットにされないような経営を行うことも重要です。そのためには企業価値と株主利益を最高に維持する経営を行うことです。ほかのどんな経営者が来てもこれ以上の経営はできないというような経営を行っておれば、(とくに村上ファンドのような)買収者のターゲットにはなりません。経営者を交代させたり経営方針を変更させることで企業価値を高めることができると見られるから狙われるのです。
株式持ち合い(事業会社同士の)によって安定株主作りをめざすのも、はじめから買収者のターゲットにされないための方策です。
さらに、ワールドやポッカコーポレーションのように、経営陣による企業買収(MBO)を行ってあえて上場廃止に踏み切る企業もあります。「究極の買収防衛策」とも言われます。

今後日本国内でM&Aはさらに活発になることは間違いありません。
その目的も多様になり、事業の拡大、競争力の保持、キャピタルゲインや高配当狙い等に加えて、大企業がM&Aを使って子会社を再編するケースも増加すると思われます。
買収者も企業やファンドなど多様になります。ファンドの中でも多種多様です。
敵対的買収も増加するでしょう。村上ファンドも意気軒昂です。彼のターゲットである「とろい経営者がいて、不動産の含み益を膨大に抱えている上場企業」はいくらでもあるそうですから。
新会社法によって、外国企業も子会社を通じた株式交換で日本企業を吸収合併できるようになります(いわゆる三角合併)。これもM&Aを促す作用を果たすものと思われます。
力ある企業はM&Aにより市場占有率を高め、それによって好業績を達成し、その稼いだ利益をさらなるM&Aに振り向けていこうとしています。
日本も世界も、めまぐるしい「大買収の時代」に突入したと言えます。