塾講師が新しく塾を立ち上げる際の注意

 木ノ島 雄介

2014年12月15日

<ポイント>
◆もとの塾の生徒に入塾の勧誘をすると違法とされることがある
◆損害額算定期間は少なくとも勧誘された塾生が退塾した事業年度末までの期間

少子化が進んでいることもあり、予備校が事業を縮小したり、逆に今後の存続をかけて中学受験塾などを傘下に収めて事業を拡大したりしています。塾どうしが業務提携するケースも出てきました。
たとえば今年は、代々木ゼミナールが校舎を大幅に減らすという報道がなされましたし、札幌市に本社を置く進学会と関西を地盤とする浜学園が、事業を拡大して競争力を強化するために業務提携するとの報道がなされました。
このように予備校や塾どうしで熾烈な競争がなされているところですが、このような状況においても怯まずに新規参入しようとする人もいます。塾を新しく立ち上げる際、特に問題がなければよいのですが、塾で働いている方が新しく学習塾を立ち上げる際には、注意しておいた方がよいことがあります。今回は、学習塾で働いていた講師が新しく塾を立ち上げる際の行動が違法と評価され損害賠償責任を負うこととなった事例を紹介したいと思います。

この事例は、学習塾の時間講師として勤務していた者と、その学習塾の一校の校責任者を務めていた者の二人が、その塾の生徒や保護者に、授業料についてその塾よりも有利な条件を提示し、退塾して新しい学習塾に入るよう勧誘したとして、43名の塾生が平成21年6月末にその塾をやめたことについて損害賠償責任を負うと判断されたものです。広島高等裁判所で平成26年4月16日に判決が下されました。一審(広島地裁福山支部平成24年11月28日判決)と比べて減額されましたが、概ねその考えが引き継がれています。
そして、もとの塾が被った損害については、仮に二人が新しい塾に入るよう勧誘しなかったなら生徒が退塾せずに在籍していたといえる期間(損害額算定期間)に支払われるはずであった授業料総額(いわゆる売上額)から経費相当額を差し引いた利益部分としました。
これを前提に、裁判所は、もとの塾の事業年度が当年3月から翌年2月であったことから、平成21年6月30日に退塾した43名の塾生は、二人の勧誘行為がなければ、各学年の指導カリキュラムが終了する平成22年2月末日まではもとの塾に在籍していたであろうと判断しました。
しかし、翌3月以降については学年が上がって指導カリキュラムが新しいものとなり、授業料の金額も変更されることを理由に、二人の行為がなければ在籍していたであろうとは必ずしもいえないと判示しました。
すなわち裁判所は、もとの塾が被った損害について、事業年度の終わる平成22年2月末日までの分に限定したことになります。

なお、二人は、もとの塾の一校が生徒を獲得できたのには二人と塾生との信頼関係が深く関わっているのであるから、損害額を算定するにあたっては、二人の寄与を差し引くべきと主張しました。しかし、これに対しては、裁判所は、二人がその塾の時間講師として勤務していたことやその一校の校責任者であったことを重視し、二人と塾生との信頼関係によって生じた利益はもとの塾に帰属すべきものと判示し、二人の主張を認めませんでした。

もとの塾が被った損害としてどの期間まで算定するかは議論の余地があると思いますが、二人が損害賠償責任を負うとの結論は妥当なのではないかと思います。塾に講師として勤務している方が新しく塾を立ち上げる際、どのような行動をとると問題になるのか参考になれば幸いです。