休職期間満了後のリハビリ出社についての判例

 池野 由香里

2011年02月01日

<ポイント>
◆休職期間満了後のリハビリ出社は休職期間の延長との判例あり
◆誤解を招かないため、リハビリ出社の取り扱いについて文書で明確化するべき

近年、うつ病をはじめさまざまな疾病が原因で業務に就くことができずに休職となる人が増えています。
それに伴い休職期間満了後の取り扱いに関するトラブルも増えているようです。
休職期間満了時に復職できなければ退職となるため、休職期間が満了した時点で復職が可能かどうかの判断が難しい事案も多く、リハビリとしての出社を行いながら復職が可能かどうかの様子をみるケースも多くなっています。
今回は、休職期間満了後の取り扱いについての参考にしていただきたく、休職期間満了後のリハビリ出社を復職とみるかどうかが争われた判例(東京地裁平成22年3月18日判決)を紹介します。

運輸業を営む会社で勤務していた従業員が脳出血を発症し、体の右側が麻痺の状態となりました。
その後、従業員は、就業規則に定める休職期間が満了するまで休職しました。
従業員は、休職期間満了に先立ち、勤務が可能であるとして復職を希望しましたが、従業員が提出した医師の診断書には復職することの可否について記載がありませんでした。そのため、会社は従業員と面談のうえ、休職期間満了後の1年間、週3日出社し、午前10時から午後2時まで簡易な作業に従事させることになりました。
その際、会社の担当者は従業員に対し、この「制限勤務」はあくまでリハビリの一貫であり、無給であり通勤手当も不支給であると通知しました。なお、休職期間の延長措置について特に話はありませんでした。なお、この従業員は「制限勤務」中は加入していた保険組合から疾病手当を受け取っていました。
従業員は、休職期間満了後1年間「制限勤務」を続けましたが、そのなかで通常の業務を遂行できる程度に回復していないことが明らかとなりました。
そのため会社は「制限勤務」の期間の限度として定められていた1年間の経過をもって休職期間の延長期間が満了となり退職扱いとなると述べ、その後の従業員の就業を拒否しました。
これに対して、従業員は会社に対し、従業員としての地位の確認と就業を拒否されてからの賃金の支払いを求めました。

結論として従業員の主張は認められませんでした。

この事案の主な争点は、(1)「制限勤務」開始をもって復職とみることができるかどうか、(2)本件の退職扱いが信義則違反であり無効かどうかという点です。

裁判所は、(1)の「制限勤務」開始をもって復職とみることができるかどうかについて、会社側が送ったメールの内容や、従業員に対する出退勤の管理がなされていないこと、給与や通勤手当も支払われていないことなどから、従業員の行った作業が労働契約に基づく労務の提供ということはできず、まさにリハビリのために事実上作業に従事していたにすぎないとして、「制限勤務」の開始をもって「復職」ということはできないとしました。
そして、休職期間満了後に「制限勤務」がなされたことは、1年後の「制限勤務」の終了時点まで休職期間が延長されたととらえるほかないとしました。

(2)の信義則違反の点について、従業員は、「休職前の業務について労務の提供ができないとしても、会社は、従業員の能力経験地位に応じ従業員が遂行することが可能な業務を提示する義務があり、それをせずに従業員を退職させた会社の取り扱いは信義則に反し、違法である」と主張しました。
しかし、裁判所は、従業員自身が遂行できる具体的な業務があることを主張しなかったことや、1年間の「制限勤務」期間中の作業の遂行状況から見れば、仮に他の種類の業務であっても通常の業務遂行ができる程度にまで回復するとは認められず、復職は不可能であるとして退職の扱いをした会社に信義則違反はないとしました。

一般的に、会社は、従業員から自分の状態に応じて、配置される現実的可能性がある業務について働きたいとの希望があれば、それを受け入れなくてはならず、従前の業務の遂行能力があるかどうかだけで復職の可否を判断してはならないとされています。
しかし、この件では、実際に1年間作業に従事させ、その間従業員から自らが遂行することが可能である業務について具体的な主張がなかったことを重視し、このような結論になったものと思われます。

「制限勤務」についても裁判所の判断は妥当だと考えますが、今後このような争いになるのを避けるためには、「制限勤務」を開始する時点で、「制限勤務」の開始が復職ではなく、休職期間の延長であることを双方確認する書面を作成するなどの配慮が必要でしょう。