令和元年会社法改正(第3回)~取締役の報酬等について~
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<ポイント>
◆株式や新株予約権が報酬となる場合の総会決議事項が法定され、払込不要の株式等の報酬も可能になった
◆一定の会社では個人別の報酬等の決定方針を定める必要あり
◆事業報告による情報開示が強化された

取締役の報酬等について法的な規制がありますが、これは取締役が自分の報酬等を自分で決めることによる「お手盛り」の弊害を防止することにありました。
しかし、報酬等を取締役の適正な業務執行へのインセンティブとするという考えも取りいれられ、それも踏まえて令和元年に会社法が改正されました。

株式や新株予約権を報酬等とする場合
取締役への職務執行の対価として、株式や新株予約権を交付する方式は以前からありましたが、今回の改正では、報酬等として株式・新株予約権を交付する場合、その数の上限、譲渡制限(株式)、行使制限(新株予約権)の条項など一定事項を株主総会等で定めなければならないとされました。
これは、その報酬が取締役の適正業務へのインセンティブとなりうるかを株主に確認させ、よって、株主による経営へのコントロールを実現しようという考えと、既存株主の持株比率の希釈化について既存株主の評価を経させるべきとの考えによるものです。
さらに、報酬等につき総会で決議すべき事項について新しく定める、あるいは、改定する場合に、その議案を提出した取締役にはそれを相当とする理由の説明義務があります(この説明義務は、確定金額として定める報酬、不確定額として定める報酬、非金銭報酬等についても同様です)。
改正前は、株式・新株予約権の発行や新株予約権行使時には金銭の払込み等が前提でした。
しかし、改正により、上場会社限定で、株式については報酬として与える場合に限って取締役からの払込みを不要とすることも可能とされました。また、新株予約権については従前から無償交付が可能でしたが、同様に上場会社限定、報酬として付与された新株予約権に限って権利行使時の払込みも不要とすることが可能になりました。
なお、株式や新株予約権を報酬とすることを最終目的に形式的に金銭を報酬として定め、会社に対する報酬債権を株式取得のための現物出資としたり、新株予約権取得の対価と報酬請求権を相殺させる方式についても、その上限数などを株主総会等で定めることとなりました。

取締役の個人別報酬等に関する決定方針
公開会社で大会社である監査役会設置会社で有価証券報告書の提出を要する会社及び監査等委員会設置会社は、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針を取締役会で定めなくてはならないことになりました。
ただし、取締役の個人別報酬等が株主総会等で定められたときは決定方針の定めは不要です。これは、個人別報酬等の決定手続に透明性を持たせ、株主や投資家にとって報酬等の内容が取締役の適正な業務執行のインセンティブとなっているかをチェックできるようにするという意味があります。
たとえば、取締役全体で10億円を報酬の上限として株主総会で定める、あるいは、取締役全体で経常利益の5%を報酬の上限として株主総会で定めるとした場合、取締役会が代表取締役などにその上限額をもとに個人別の額の決定を一任するという取り扱いも相当数あったのではないかと思います。
しかし、それでは上記のような取締役の適正な業務執行へのインセンティブとはなりにくいのではないかという問題意識がありました。そこで、個人別報酬等に関する決定方針を定めることを会社法で義務付け、それを後述のように開示対象にすることで株主の目に触れさせ、会社に当該決定方針を順守させることで、個人別報酬等が各取締役の適切な職務執行へのインセンティブとなるようにしたのです。
決定方針の内容としては、概略、業績連動報酬等、非金銭報酬等及びこれら以外の報酬(固定報酬等)の採用及びそれらの割合、業績連動報酬等・非金銭報酬等の額等の算定方法、業績連動報酬等の算定の基礎とした指標や非金銭報酬等の内容等があります。決定を第三者に委任する場合の定めるべき事項もあります。
これらの方針に従わずに決めた個人別の報酬等は違法・無効となります。
 
情報開示
今回の改正以前より報酬等に関する株主のコントロールに資するものとして、報酬等に関する情報開示が複数存在しておりました。株主等が報酬等の情報を把握して、株主総会を通じて経営へのコントロールを及ぼそうというものです。
具体的には、株主総会参考書類による開示、事業報告による開示、上場企業については有価証券報告書による開示があります。今回の改正では、事業報告による開示が強化されました。
すでに開示府令によって有価証券報告書の役員報酬等に関する開示の充実が図られていました(「2019年6月株主総会の留意事項」参照)が、改正法では取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針を定めることが必要となったことから、これについての事業報告での開示も必要とされました。
具体的には、当該決定方針の決定方法(例:外部のコンサルタントに助言を受けた等)、方針の内容の概要、個人別の報酬等がその方針に沿うと取締役会が判断した理由があります。
また、業績連動報酬等、非金銭報酬等(これらがある場合であり、以下同様です)及びこれら以外の報酬(固定報酬等)を区別して開示することになりました。
開示内容は、概略、会社役員の全部につき、取締役、会計参与、監査役または執行役ごとの報酬等の総額を掲げる場合には、これら3種類の報酬等の総額と員数を開示することに、当該役員ごとの報酬等の額を掲げる場合は、役員ごとにそれらの金額を開示することになりました(両者が混合している場合は各場合に応じます)。
社外役員の報酬等も、従来からそれ以外の役員と区別して開示されていましたが、上記区分と同様に区分して開示することになりました。
上記方針の内容の概要等と重なるかもしれませんが、業績連動報酬等の額等の業績指標の内容とそれを選定した理由、額等の算定方法、用いられた業績指標に関する実績を開示することになりました。
また、株主総会における報酬の決議について、決議日、その内容及びその際の役員の員数も開示する必要があります。