人材と競争政策に関する検討会報告書について(7)

 嶋津 裕介

2019年04月01日

<ポイント>
◆人材の仕事の成果物につき企業が人材に公表させない義務を課すことがある
◆その成果物について生じた著作権等について制限を課すことがある
◆競合他社の商品・サービス供給が困難となるおそれがあれば、独禁法上の問題

今回は「役務提供者に伴う成果物の利用等の制限」に対する独占禁止法の適用を説明します。人材が企業からの発注に基づいて仕事をした結果、何らかの成果物があったとき、人材自身がその成果物を利用することに企業が何らかの制限を加えることが独禁法上許されるか、という問題です。

企業が人材に対し「成果物の非公表義務」を課すことがあります。企業がその成果物が自社のものであると公表する一方で、人材にはそれが自らの仕事の成果であることを明らかにしないようにする義務を課すものです。
企業とすれば、質の高い成果物を作ることのできる人材の名前が広く知られてしまうと、他社からその人材への発注が増えて、次は仕事を受けてもらえなくなるかもしれないと懸念し、その人材を囲い込むなど合理的な理由なく企業がこのような義務を課すことがあります。人材の側からすれば、自らこういう仕事をしたということが、人材獲得市場において、発注先(顧客)を獲得するうえで重要な競争手段となっていれば、この義務は、競合他社と人材が新たに取引を行うことを制限する効果を有することになります。

また人材が企業に提供する仕事によっては、その成果物について人材に一定の著作権等の権利が発生する場合があります。企業は自社が発注した仕事のプロセスで発生したこと、自社が費用負担したことなどを理由として、その権利に制限を加え、あるいは自社への譲渡を求めることがあります。
人材が企業のために仕事をした結果である成果物を、他の企業に提供することを禁止(成果物の転用制限)したり、人材の肖像等の独占的な利用を許諾させたり(肖像等の独占許諾義務)、著作権の帰属について何ら事前に取り決めていないのに、事後的に著作権を無償または著しく低い対価で譲渡するよう求めることがあります。
なお、特許法上の職務発明、著作権法上の職務著作については、それぞれの規定に従うことになります。

このような義務・制限等を課すことが独禁法上、どのような問題が生じ得るか。
ある企業が人材に義務や制限を課すことで、競合他社が商品・サービス市場において供給するうえで必要な人材、成果物、肖像等を確保できなくなったり、コストが引き上げられたりすることを通じて、競合他社が商品・サービスを供給することが困難となるおそれが生じる場合、自由競争減殺の観点から独禁法上問題となり得ます。
その違法性は、義務・制限等を課された人材の範囲、あるいは人材、成果物、肖像等を確保できない競合他社の範囲が広いほど、義務・制限等の内容がその目的に照らして過大であるほど、義務・制限等が複数の企業にて同時に課されているほど、強くなると言えます。

企業が人材に義務・制限等の内容について実際と異なる説明をし、または予め十分に明らかにしないまま人材がそれを受け入れている場合には競争手段の不公正さの観点から問題となりえ、また優越的地位の濫用の観点からも問題となり得ること、
前回までの秘密保持義務、競業避止義務、専属義務の場合と同様です。