<ポイント>
◆事業譲渡におけるゴルフ倶楽部の名称の継続使用による預託金返還債務の承継
◆事業譲渡ではなく営業全体の賃貸借と認められるときへの類推
1 ゴルフ場の事業譲渡における問題点
ゴルフ場も預託金返還債務を会員に返せないとき、第三者に事業譲渡することが考えられます。
ゴルフ場の事業譲渡では、例えばA社が「いろはにゴルフ倶楽部」をB社に事業譲渡したとします。このとき、B社が「いろはにゴルフ倶楽部」の名称を引き続き使用することが多いと思います。このようにゴルフ場の名称を引き継いで使用したときB社はA社の預託金返還債務も引き継ぐのでしょうか。
2 会社の名前を引き継いだ場合
会社の商号(会社の名前)を引き継いだときは、商法17条第1項(旧商法26条1項)は次のとおり規定しています。
「営業を譲り受けた商人(以下・・・「譲受人」という。)が譲渡人の商号を引き続き使用する場合には、その譲受人も、譲渡人の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う。」。
つまり会社の営業を譲り受けた会社(上記B社)が、譲渡した会社(A社)の商号、つまり会社の名前を引き続き使用するときは、譲り受けた会社も譲渡した会社の営業によって生じた債務を弁済する責任を負うとされています。
3 ゴルフ場の名称を引き継いだ場合
では「商号」ではなく、「いろはにゴルフ倶楽部」というゴルフ場の名称を継続して使用しているときはどうでしょうか。
この点、最高裁平成16年2月20日判決は、以下のとおり判示してゴルフ場の名称を引き続き使用する者の預託金返還義務を負うと判示しました。
「預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の営業主体を表示するものとして用いられている場合において、ゴルフ場の営業の譲渡がされ、譲渡人が用いていたゴルフクラブの名称を譲受人が継続して使用しているときには、譲受人が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り、会員において、同一の営業主体による営業が継続しているものと信じたり、営業主体の変更があったけれども譲受人により譲渡人の債務の引受けがされたと信じたりすることは、無理からぬものというべきである。したがって、譲受人は、上記特段の事情がない限り、商法26条1項の類推適用により、会員が譲渡人に交付した預託金の返還義務を負うものと解するのが相当である。」
商法17条1項が定めるように、会社の名前を引き継いだのではなくゴルフ場の名称を引き継いだ場合に適用しているので「類推適用」とされています。
4 事業譲渡ではなく事業の包括的な賃貸借の場合
ここからさらに発展させると、事業譲渡ではないときにも商法17条1項の類推適用の余地があるのでしょうか。
結論的には、東京地裁平成16年12月10日判決は事業の包括的な賃貸借の事案でも類推適用を肯定しています。
ゴルフ場運営会社が預託金返還債務の負担を回避するために、別会社を用意して業務委託契約や施設等の賃貸借契約を締結して当該別会社に資金を吸い上げて「無い袖は振れない」状態にするスキームが採られているときもあります。
預託金返還請求をする会員としては、このようなときに、上記最高裁判決や東京地裁判決を活用して主張を組み立てることができるのではないでしょうか。