カネボウ白斑事件から学ぶこと

 池田 佳史

2014年03月01日

<ポイント>
◆消費者からの情報も不祥事発見の契機となる
◆一見不祥事と無関係な情報でも共有して利用できるようにする必要がある
◆公表の遅れが会社に対する評価をより悪化させる

会社の不祥事は、その会社の役職員以外の者からの情報提供によっても明らかになることがあります。消費者向けの商品の製造、販売をする会社では、その商品を購入した消費者からの問い合わせやクレームも貴重な情報源となりえます。
消費者は内部通報制度の通報者として予定されていませんが、「お客様窓口」などの名称で消費者からのクレーム等を受け付ける通報窓口を設置している会社は多くあります。
それらクレーム等の中で、全消費者に共通の問題となるような情報に関しては、通報してきた消費者との間で個別解決をするだけでは不十分であり、全消費者に向けた対策を講ずる必要があります。
一人またはごく少数の消費者からクレーム等があった段階では、その問題はマスコミ、行政庁を含めた世間一般には知られておらず、通報者を別とすればその会社しか認識していない状態ですので、その意味では内部通報があった状態と類似しています。
この段階でのクレーム等への対応の巧拙が会社の信用を高め、また貶めることについても内部通報の場合と同様です。
カネボウのロドネノール配合美白製品による白斑様症状被害についての同社の対応は、内部通報制度の運用においても重大な示唆を与えてくれます。

この事件の概要は以下のとおりです。
カネボウは平成20年9月以降ロドネノール含有の化粧品を順次発売していきます。平成23年10月頃にある消費者から白抜け症状がでたとの相談がありますが、化粧品が原因ではないとして医者に診察を薦めます(その後、症状は改善した模様)。
以後、平成23年中に社内で同様の情報がもたらされ、平成24年中に消費者から約10件の同様の相談がありました。また、社内でも1件の情報提供がありました。特に平成24年9月には大阪府内の大学病院の医師から、発症部位が化粧品使用部位と一致していることから、ロドネノールが白斑発生の引き金となった可能性があるとの意見を聞いています。
平成25年5月13日に岡山県内の大学病院の皮膚科医からメールで問い合わせがあり、同月22日にカネボウ社内でも独自に医師の所見を求めたところ白斑様症状はカネボウの化粧品が原因となっている可能性が高いとの指摘を受けました。ここにいたって、カネボウは平成25年7月4日にロドネノール含有の化粧品の自主回収を行うことを発表しました。

カネボウの対応に対する批判の一つには、平成23年10月の最初の通報から自主回収までの期間が長すぎ、その間にも被害が拡大していったということがあると思います。
約1年半の間という長期間にわたり何らの対策もとられなかった理由の一つとして、合計17件の消費者から相談が寄せられていながら、その情報が共有されていなかったことが挙げられます。
カネボウには「エコーシステム」という消費者から寄せられた指摘や問い合わせを集約し、社内で共有化するシステムがありました。しかし、情報を「エコーシステム」に入力する担当者の判断で「身体トラブル(スキントラブル)」に該当しないとした場合にはこの分類には登録されず、その場合には品質管理や安全管理を担当する部署はその内容をチェクしない運用がされていました。上記の提供された情報の大部分は「エコーシステム」に蓄積はされていましたが、一般的な「問い合わせ(照会)」事例とされているだけでした。
化粧品発売に先立つ臨床試験等でもロドネノールにより白斑症状が発症する例はなく、厚生労働省の承認も得ていたことや、ロドネノールが白斑症状の原因であることを示す文献の存在も認識されていなかったことから、カネボウ社内では、白斑症状は発症者の病気によるもので化粧品によるものではないと考えられており、入力担当者を含め社員はそれに疑問を持とうとはしなかったようです。
その結果、外部の医師からの問い合わせによりロドネノールが白斑症状の原因であるかどうかを真剣に検討する必要が生じるまでは、消費者から提供されて集積された情報が顧みられることはなく、白斑症状の原因ではないことを前提とした調査や医師への問い合わせをするのみでした。
もし、消費者から提供された情報が「身体トラブル(スキントラブル)」として関係部署間で共有されていれば、より早期にロドネノールが白斑症状の原因である可能性に気づき、対応できたのではないかと思います。
この事件は会社内部の思い込みが情報共有を妨げ、対応に重大な遅れが生じた事例ですが、内部通報により提供された情報が、一見、違法ではない、または会社の不祥事とは繋がらないようにみえる場合でも、不祥事が潜んでいる可能性があることを意識して担当者間で情報を共有して丁寧に吟味することが必要です。

また、この事件では、第三者委員会の調査報告書でも述べられていますが、平成25年5月13日の岡山県内の大学病院の医師からのメールから7月4日の自主回収の公表までの約2カ月期間は短縮できたはずであるという指摘もあります。
自主回収の準備を整えるのに一定の時間がかかることは理解できるとしても、女性の顔や首に白斑症状が発症するという重大な問題であることを考えると、販売停止、使用停止の公表を優先すべきであったとの主張の方がより説得的だと思います。少なくともそのように感じる消費者が多いと思います。
不祥事公表の遅れが消費者の会社に対する印象を悪化させるという事例でもあると思います。