インサイダー取引の課徴金事例は過去2番目に少なく

 池田 佳史

2022年04月15日

<ポイント>
◆課徴金事例は激減するも、平均課徴金額は高止まり
◆インサイダー取引規制違反についての教育の重要性の再認識を

証券取引等監視委員会は、2008年(平成20年)から毎年公表している「金融商品取引法における課徴金事例集」を2021年(令和3年)6月24日に公表しました。
この課徴金事例集によると、令和2年度(令和2年4月から令和3年3月)のインサイダー取引件数は8件(6事案)と昨年より16件減と公表開始時の4件以来の少ないものでした(インサイダー取引規制の概要については拙稿「インサイダー取引をさせないための社内対応」( https://www.eiko.gr.jp/lawcat/kaisya/page/7/ )参照)。
ただ、年間合計約4000万円の課徴金納付命令勧告があり、1件あたりの平均額では過去2番目の多さでした。令和元年度は約2億円の課徴金納付命令勧告事案があったために年間約合計2億4000万円にのぼりましたが、同事案を除いて計算すると前年比では1件あたりの平均額は大幅に増えているといえます。

今回の課徴金事例集にあらわれた事案の特徴としては、かねてより公開買付等の事案が最も多いことが指摘されていましたが今回もあったこと、情報伝達規制違反もあったことがいえると思われます。
公開買付等の事案としては、公開買付を決定した会社(公開買付会社)の役員が知人に情報を伝達してその知人が、また公開買付会社と文書開示に関する契約を締結していた会社の従業員が公開買付を知って、それぞれ被公開買付会社の株式を買付けた事案です。
公開買付けは関与する者も多くなることから情報の管理とインサイダー取引規制違反のないように緊張を高めておく必要があることが指摘されています。
なお、この事案で情報を伝達した公開買付会社の役員については利益を得させる目的の立証が難しかったようであり、課徴金の対象とはなっていません。
情報伝達規制違反としては、朝日放送が持株会社である朝日放送HDに移行する際の会社分割、及び移行後に東証一部上場会社である映像制作会社との資本業務提携契約、同社から朝日放送HDに第三者割当による新株発行の重要事実を知った朝日放送の社員が利益を得させる目的で知人に情報伝達し、同知人が朝日放送株の、同知人と朝日放送従業員が映像制作会社株の、買付けをした事例です。
会社分割については平成29年2月、資本業務提携契約等については平成31年4月から令和元年5月にかけてと連続して2件のインサイダー取引を行っていること、別の知人の口座を利用していることが特徴的であり、悪質な事案といえると思います。

また、課徴金勧告事例ではなく、金融取引等監視委員会が告発した事例のために上記事例集には載っていませんが、上記期間内にはドン・キホーテHDの元代表取締役による取引推奨事案がありました。
同代表取締役は平成30年8月にユニー・ファミリーマートHDがドン・キホーテの株を公開買付けすることを決定したこと等を知って、利益を得させる目的で知人にドン・キホーテの株の買付けを勧めた事案です。この事案では、約4億3000万円の株を買い付けて、約6900万円の利益を得たということです。
一部上場企業で消費者に非常に有名な企業の代表取締役により行われたインサイダー取引規制違反行為として大きなニュースとなりました。
この事件は、令和4年4月27日に懲役2年執行猶予4年という判決がされています。
同代表取締役は、取引推奨がインサイダー取引規制違反にあたることを知らなかったと述べているようですが、もしそれが本当だとすれば、上場企業として取締役の教育不足であり、カリスマ経営者であるとしてもコンプライアンス教育の重要性を改めて確認する事件といえます。