「ポイズンピル(毒薬条項)」とは

 梅本 弘

2005年09月15日

最近、企業買収とそれに対する防衛策についての議論が活発です。
その際、「ポイズンピル(毒薬条項)」という言葉が頻繁に出てきます。
なじみのない方のために、これの意味と機能についてわかりやすく説明します。

会社は株式の多数を制する者がその意思によって経営を采配することができます。
51%、つまり過半数を所有すると、取締役の選任をはじめ多くの事項について自分の意思を通すことができます。67%、つまり3分の2を所有すると経営に関する大部分の事項につき自分の意思を通すことができます。
そこで、企業買収をもくろむ買収者は、通常まず相手企業(被買収企業)の過半数の株式を取得することを目指します。
その方法として、会社の30%を超える株式を取得する場合は、特定の株主から個別取引によって購入することはできず、TOB(株式の公開買付)という方法で取得しなければならないと定められています(証券取引法の適用のある会社の場合)。
TOBを行う場合でも、事前に被買収企業の経営者や大口株主等と円満な話し合いがついていて行う場合とそうでない場合があります。
後者は、経営者らが反対しているのにあえてそれに敵対して株式取得つまり買収を行おうとする場合ですから、これを「敵対的買収」と言います。最近の例では夢真対日本技開事件があります。
その場合、被買収企業の経営者は買収者のもくろみが成功しないように種々の対抗策、防衛策を発動することになります。このときの代表的な防衛策が「新株予約権の発行」という方法です。
話を簡単にするために、新株発行(増資)を行い、発行済み株式の総数を増加させるとともに、その新株を買収者以外の株主に割り当てる方法と理解して下さい。
例えば、被買収企業の発行済み株式が10,000株とします。買収者はその過半数である5,001株を取得しようとします。ところが、新株を4,000株発行すると(その権限は取締役会にあります)、発行済み株式総数は14,000株となり、買収者はそのうち7,001株を購入しなければ過半数になりません。
しかも新株の4,000株は普通被買収企業の経営者に協力的な株主に割り当てられますので、買収者にとってそれははじめから買えないものとしなければなりません。そうするとそれ以外の10,000株の中から7,001株を取得しなければならないことになり、それに伴い買付け単価も高くしないといけないという高いハードルに直面することになります。
このようにして買収者のもくろみをくじき、買収を困難ないし不可能にすれば、敵対的買収に対する防衛が成功した、ということになるのです。
「ポイズンピル(毒薬条項)」は、このように買収防衛策として用いる新株の発行等の手法を言います(いろんなバリエーションはありますが)。

ところで、新株の発行を決定し得るのは取締役会であると述べましたが、その株数は無制限ではありません。定款にその発行限度枠(授権資本)が定められています。そのため、現在の発行済み株式数がこの限度近くに達しており余裕がないときは、あらかじめ株主総会で定款を変更し、十分な余裕枠を確保しておく必要があります。
平成17年6月に開催された多くの株主総会でこの定款変更の提案がなされました。可決承認された会社も多い反面、東京エレクトロン、横河電機、ファナック等では否決されました。
株主が発行限度枠の増枠に反対する理由は、取締役会の裁量で大量の新株が発行されると既存株主の持ち株比率が下がってしまうからです。
例えば、発行株式数が10,000株の会社で1,000株を所有している株主は10%の議決権を持っていることになりますが、発行済み株式数が14,000株になると、約7%の議決権に低下してしまいます(議決権というのはその会社に対する発言権、影響力と理解して下さい)。
また発行済み株式数が増加すると、1株当たりの利益が減少し、既存株主の不利益につながりやすいということもあります。
こういうことを取締役会の裁量で無制限ないし大量に行われては困ると言うのです。

新株(予約権)の発行をいつ行うかという時期の問題も重要です。
敵対的買収が開始されたのち、いきなりその対抗策として新株予約権を発行することは原則としてできません。
ライブドアの買収に対してニッポン放送が行おうとしたのがそれですが、裁判の結果、現経営者の保身のための対抗策に過ぎないと見られ、そのような新株予約権の発行は著しく不公正であって法律が禁じるところであると判断されました。
また、平時における新株予約権の発行等の買収防衛策も、基本的に株主総会の承認を得なければならないというルールが定着しつつあります。
さらにその背景には、そもそも「敵対的買収は悪」という先入観を払拭すべきであるという考え方もあります。
「明らかに悪い買収」は判断が容易ですが(今どき露骨なものはありません)、そうでない敵対的買収は、これを受け入れるべきか、それとも排斥するべきかはたしかにデリケートな問題です。従って、少なくとも現経営者の保身の動機からその是非が判断されてはならず、被買収企業の企業価値の観点から、また既存株主の意思を尊重して検討されなければなりません。
これからの日本経済界は企業買収を含むM&Aの嵐が吹きまくります。
企業買収を冷静かつリーズナブルに見る考え方が次第に浸透してきているのはたしかですが、さらに適正なルールの検討、確立が必要と思われます。
企業買収とそれに対する防衛策についても正しいルールが確立されなければなりません。