<ポイント>
◆株主提案が過去最高になり、委任状勧誘のために株主名簿閲覧謄写請求が重要に
◆提案株主による経済的利益提供を阻止する目的での争訟は正当な権利行使との判例も
2023年6月下旬に定時株主総会を行った上場会社で、株主提案を受けた会社は90社、総議案数は348にのぼり、過去最高となったとの記事を紹介しました。
2025年6月総会においてはより増加し、アクティビスト等による株主提案の件数は114社134議案で、過去最多となったということです。なお、株主提案の詳細については拙稿の「株主提案は増加傾向」などをご覧ください。
株主提案をした場合、提案株主が他の株主の賛同を求めて委任状の勧誘をすることがあります。そのため株主名簿の閲覧謄写は重要なものです。
会社法125条により、株主は会社の株主名簿の閲覧謄写請求をすることができ、会社は、株主がその権利の確保または行使に関する調査以外の目的で請求するような濫用的な場合を除き、拒絶することができません。
上記の濫用的な場合であるとして、会社が閲覧謄写請求を拒絶することにより、株主総会における株主の正当な議決権行使に影響が生じたにも関わらず決議が成立した場合には、当該株主総会に決議取消事由があるかどうかという問題が生じます。
会社が株主名簿閲覧請求を争ったことが、総会決議取消にあたるかどうかに関する裁判例(東京地裁令和6年3月27日)があります。事案の概略は以下のとおりですが、株主請求による臨時株主総会の後の定時株主総会についてのもので、経過が複雑なため単純化しています。また、会社側による提案株主を貶める印象操作があったかも争点となっていますが、本稿では割愛しています。
令和5年3月31日、上場会社N社の同年6月の定時株主総会において、議決権総数の約11.6%を有する株主が、取締役4名の選任を内容とする議題を目的とするよう請求(株主提案)しました。
つづいて、同株主はN社に対して、基準日(同年3月31日)時点の株主名簿の閲覧謄写請求をしました。
これに対して、N社は同株主に、同社の株主に対して経済的利益の提供を行わないことの誓約を受け入れない限り、同閲覧謄写請求は認められない旨の回答をしました。そのため、同株主は株主名簿閲覧謄写を命ずる仮処分命令の申立てをしました。
裁判所は、最終的に同年6月18日に、同株主が現時点では経済的利益の提供を行う具体的な意向を有していないことなどを理由に上記仮処分を認めたので、N社も結局は上記閲覧謄写請求を認めることとしました。
その後の同年6月29日のN社の定時株主総会で会社提案が可決、株主提案は否決されました。
そこで、同株主は、株主名簿閲謄写請求を認めるのが遅すぎたため定時株主総会の決議方法が著しく不公正となったとして決議の取消しを求めて提訴しました。
裁判所は、同株主の請求を棄却しました。
理由の概略は、N社が閲覧謄写請求を認めず、仮処分事件の申立てについて不服であること等の対応をしたとしても、同株主が誓約すれば速やかに開示されたと考えられることからすると、不服であるとの対応に名を借りて委任状勧誘行為を妨害する目的に出たとは認められず、正当な権利行使というべきである、というものでした。
株主が委任状勧誘目的で株主名簿の閲覧謄写請求をすることは、株主の権利の確保または行使に関する調査の目的で行うものであることが過去の裁判例で認められています。
一方で、委任状勧誘にあたり提案株主が経済的利益の提供をしようとすればどうでしょうか。
会社が株主の権利行使に関し財産上の利益の提供をすることは許されません(会社法120条)。しかし、これは会社財産の浪費を防ぐことがその趣旨であり、株主提案における提案株主に直截適用されるものではありません。
もっとも、経済的利益が提供された場合、株主の意思が正当に反映しておらず、決議方法が著しく不公正であるとして決議取消事由に該当することはありうると思います(私見)。
いずれにしても、N社が、株主総会における不当な影響を防止するために、上記誓約が必要であるとして争ったことは正当であるとの本件判決は正しいと思われ、一事例として今後の参考になるものといえます。
